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月とコンビニ
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雑草のはなし

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雑草のはなし

【著】①山田②松田【2周】

○男1、津浪
○男2、馬田
○女 、海野
○男3、ヨシ
○男4
○男5、マツ

映写機が回っている。映像が流れているような、いないような。
並んでいる椅子に、二人の男が座っている。
舞台には映写機の明かりしかない。

○映像が映る【制作 津浪一朗の話】
男1  それはさ、多町が言ってんのか。
男2  ええ、監督が。
男1  演者はなんて。
男2  いえ、もう、混乱してしまって。
男1  そうだろうな。
男2  どうしましょう。
男1  …監督にストップを出すのも、俺たちの仕事か…。
男2  ですよね、わかりました。
男1  …。
男2  津浪さん、監督の方に電話いってきます。
男1  …。
男2  津浪さん。
男1  馬田。
男2  はい。
男1  俺はおかしいのかもしれない。
男2  おかしい。
男1  …見たい。
男2  は…。
男1  それで、どんな画が撮れるんだろうな。
男2  ちょっと、待ってくださいよ。
男1  いや、わかってるんだ。
男2  だったら。
男1  多町の撮った映画を見たことあるか。
男2  え、はい、今回の仕事に当たって、大体は。
男1  どう思った。
男2  どうって。
男1  正直にいい。
男2  現実的というか、生々しいというか…。
男1  面白くないよな。
男2  えっ、…はい。
男1  正直、俺には映画の良し悪しは分からん。
男2  …いや、そんなこと。
男1  けどな、この業界に長くいると、分かってくるんだ。
男2  分かってくる。
男1  映画ってのは、面白かったり、悲しかったり、胸糞悪かったりするんだな、これが。
男2  それが、映画だと思います。
男1  ああ。でも、多町の映画を初めて見たときに驚いたんだ。
男2  はい。
男1  動かないんだよ。
男2  …。
男1  スクリーンの中と外に線引きが無いんだ。普段生活している風景を写真に撮ったそのままのような。フィクションから起こされたものなのに、いやに違和感がなく入り込んでくる。だから、面白くない。
男2  ああ。
男1  自分が普段働いている職場を見せられているような、誰もいない自分の部屋をこっそり覗いているような。…動かないんだよ。
男2  …ああ。
男1  だから、俺はあいつと映画を撮ろうと思った。
男2  面白く、ないのに。
男1  多町にしか撮れない。
男2  ええ。
男1  多町の最高の作品にしたいと思って、脚本原作も探してきた。
男2  …ええ。
男1  そしたらこれだよ。
男2  いや…。
男1  裏切らないんだよ、あいつは。
男2  ダメですよ、これは。
男1  でも、見たいだろ。見たいんだ。見たいよ。
男2  ダメですって。
男1  だって、見たいじゃないか。たかが、雑草がライトに照らされるカットの為だけに、そんなことをやるんだ。画面の中には映らないのに、そんなことをやるんだ。そんなことをやって、何になるんだ。十秒にも満たない、ただ雑草がライトに照らされるだけのカットだぞ。
男2  津浪さん。
男1  分かってるって。
男2  あんた、…おかしいよ。
男1  …なあ、俺たちがここで目をつむったら、どうなるんだろうな。
男12、ゆっくりと目をつむる。
映写機の映像がぷつりときえる。

○映像が映る【女優 海野柚子の話】
女が椅子に座っており、男1は立っている。
女   …怖い。
男2  すみません、今日は。
女   …怖い。
男2  監督も、冗談だと思うので。
女   冗談なんて言う人。
男2  …。
女   …嫌がらせなんですよ。
男2  そんな。
女   演技力もないのに出しゃばって、グラビア上がりの落ち目の女優がとか思ってるんです。だからあんなこと言うんだ。
男2  監督は、そんなこと思ってないですって。
女   じゃあ、あれは何なんですか。あんなことやったら、警察とか、そんなところの話じゃないじゃないですか。
男2  海野さん個人に向かって言われた訳じゃないですし、言葉の、あやだと思います。それに、主演に海野さんを指名したのは、多町監督自身なんですから。
女   どうせ私にはやれないとか思ってるんだ、あの人。
男2  え。
女   だから、あんな目で見るんだ。あんな血走った目で、人を見下したように。
男2  今日は、帰りましょう。この後、津浪さんにも相談しますから。
女   やればいいんでしょう。
男2  …。
女   やればいいんでしょう。
男2  …、いや。
女   やればいいんだろ、クソ監督が、ちっくしょう!
男2  …。
女   っん、…いやぁ、こわっ…、なめるなぁ!
男2  待ってください!
女   なに!?
男2  …待ってください。
女   なんで…せっかく決めたのに…。
男2  きっと、冗談なんです。
女   なんで止めるの!?
男2  冗談じゃなきゃ監督は狂ってる!
女   だったら私も狂えばいいだけ。
男2  少し、落ち着きましょう。
女   …。
男2  深呼吸を。
○女、目をつむり、深呼吸する。映写機の映像がぷつりと消える。
作品名:雑草のはなし 作家名:月とコンビニ