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月とコンビニ
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婆ちゃんのラムネ

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婆ちゃんのラムネ

【案】松田、山田、ぼぶ【著】松田
○登場人物
・駄菓子屋店主のお婆さん
・高校生
・大人四二歳
・娘

【1】大人が墓参りの帰り、高校生の子供に少し昔話をしながら、駄菓子屋に向かう。

大人   父さんな、この街に来ると行きたくなる場所があるんだ。
高校生   昔住んでたんだっけ?
大人   ああ、高校生の頃だったな。
高校生   ふ〜ん。
大人   興味ないか。
高校生   そういえば爺ちゃんの墓参りに来たら、毎回どっか行ってる。
大人   知りたくなったか。昔な
高校生   なに、昔話?
大人   今その場所に向かってるんだ。着くまでの暇つぶしと思え。
●大人、高校生ハケ

【2】夕方、帰宅中の高校生は梅雨時にもかかわらず、傘を持っていなかった。案の定、雨は降り高校生は通学路にある駄菓子屋の前で雨宿りをするのだった。

●SE「ザァーー」高校生入り。照明少し暗く。から徐々に明るく。
高校生   やべっ、降ってきたっ。傘忘れてるってのに。
●高校生、駄菓子屋に向かい雨宿りをする。
高校生   ミスった。梅雨だもんなぁ〜。これ止むかな。
お婆さん   そんなとこに突っ立ってないでぇ、中ぁ入んな。
●お婆さん入り。中から引き戸を開ける。
高校生   うわっ、あ、ありがとうございます。
お婆さん   びっくりしたかい。
高校生   少し。
お婆さん   店もボロくなっちまってるからねぇ。
高校生   いえ、そんな
お婆さん   いいんだよいいんだよ。もう店を始めて大分経つからなぁ。
高校生   ここ、駄菓子屋ですよね。
お婆さん   おや、知ってるのかい。
高校生   通学路ですから。
お婆さん   お前さん、見ない顔だねぇ。
高校生   え?
お婆さん   いやいや、すまんね。今まで子どもたちがよく来とったから、自然と覚えちまうんだよ。
高校生   僕は中学生のときに引っ越してきたんで。
お婆さん   そうかいそうかい。通りで。ほれ、ラムネだよ。冷えとるぞ〜。
高校生   ありがとうございます。
お婆さん   雨の日は店を閉めとるんだよ。
●高校生ラムネを飲む。
高校生   この店、お婆さん一人でやってるんですか?
お婆さん   そうだよ〜。子どもたちもいっぱいくるからね、寂しくはないんだよ。
高校生   そうなんですか。
お婆さん   お前さん、ラムネ飲み終わったら瓶を外に置いといてみな。雨が溜まるようにね。
高校生   え? この瓶にですか?
お婆さん   そうそう。それは特別な瓶でな、婆ちゃんの魔法のラムネなんだよ。
●高校生はラムネを飲み干す。
高校生   魔法、ですか。
お婆さん   はっはっは、魔法だなんて、ちと子供っぽすぎたか。
高校生   やってみます。
●高校生は外に向かう。そのとき傘をさした大人が玄関前に立っていた。
高校生   あっ。
●大人入り。高校生、ラムネを外に置く。
大人   やぁ、婆ちゃん。久しぶりだけど覚えてる?
お婆さん   覚えとるよぉ。
大人   ほんとー? おれもう四二歳だよ? あれから三十年位経ってるのに。
お婆さん   お前さんも覚えとるから、ここに来たんだろう?
大人   あはは、婆ちゃん変わんないね。三十年前も婆ちゃんだったよ?
お婆さん   婆ちゃんを舐めるでない舐めるでない。
大人   こりゃまだまだ生き続けそうだっ。
お婆さん   お前さん、三十年前も同じこと言っとったわ。
大人   すげぇ、ちゃんと覚えてる!
お婆さん   だから言ったろうに。で、どうしたんだい? 急に。
大人   うん。家片付けててさ、そしたらこれ出てきて。
●大人は鞄からラムネの瓶を出す。
お婆さん   ラムネの瓶か。
大人   うん、これ見つけたら婆ちゃんどうしてるかなって思ったんだ。
お婆さん   どうだい、婆ちゃんの魔法は効いたかい。
大人   魔法かぁ、懐かしいね。うん、大分効いてる。子供の頃はただ婆ちゃんすげぇ! ってなってたけどさ、年取ったら色々忘れてた。
お婆さん   そうかい、良かった良かった。
大人   この瓶ずっと返してなかったし、返したほうがいいのかな。
お婆さん   私ぁいらないよぉ。
大人   じゃ、貰っていい?
お婆さん   好きにせぇ。元々あげたもんだ。
大人   あはは、ありがとう婆ちゃん。久しぶりに会えたし、良かったよ。元気そうで。
お婆さん   そうかいそうかい。婆ちゃんも嬉しかったよ、わざわざ会いに来てくれて。
大人   じゃ、俺明日も仕事あるから帰らなきゃ。実は今も仕事の途中なんだ。ははは。
お婆さん   サボりぐせは治ってないねぇ。
大人   あはは、そんなことは覚えてなくていいって〜。
お婆さん   元気でなぁ。
大人   うん。婆ちゃんも。じゃあ、またね。
お婆さん   気ぃつけてなぁ。
●大人ハケ
高校生   お婆さん、すごいですね。
お婆さん   たまに来てくれてなぁ。
高校生   あの人も魔法って言ってましたけど。
お婆さん   気になるかい。瓶を持ってきてみな、雨水少し溜まったろう。
●高校生瓶を取りに行く。
高校生   少しだけ溜まりました。
お婆さん   どれ、ちょっと渡してくれるかな。
●高校生、お婆さんに瓶を渡す。お婆さんはその瓶を軽く振る。
お婆さん   それじゃ、婆ちゃんの魔法をかけるよ〜。
高校生   振ると、なにが……
お婆さん   そうだ、そこにある駄菓子、好きなの一つ選んでねぇ。あげるよ。
高校生   え
お婆さん   いいからいいから。
高校生   ありがとうございます。
●お婆さん瓶を隠し、違う瓶を取り出す。
お婆さん   ほれ、婆ちゃんの魔法のラムネだ。
高校生   ラムネが復活してる……
お婆さん   飲んでみぃ飲んでみぃ。
●高校生ラムネを飲む。
高校生   ラムネの味だ! すごい、お婆さんどうやったの?
お婆さん   はっはっは。こういうことだよ。
●お婆さん、さっきのラムネを取り出す。
高校生   あ、入れ替えただけ?
お婆さん   そうだよ〜。お前さんが駄菓子を選んでる間にねぇ。
高校生   あはは、お婆さんずるいや〜。
お婆さん   子どもたちは本気で信じておったよ。
高校生   いや、僕も信じちゃいましたってっ。
お婆さん   魔法をかけると、婆ちゃんすげーってなぁ。
高校生   あ、じゃあ、ラムネ二本も貰っちゃってる。
お婆さん   いいんだいいんだ。それからだなぁ、それを見た子どもたちが外でラムネの瓶に雨を入れて振り回して遊んどったんだよ。
高校生   でもそれじゃあラムネにならないじゃないですか。
お婆さん   はっはっは。だから特別な瓶だと言うようにしたんだ。魔法をかけられるのは婆ちゃんだけだと言ってね。
高校生   婆ちゃんすごいや。
お婆さん   はっは。ほれ、雨が少し弱まってきたぞ。
高校生   ホントだ。そうだ、また来ていいかな。
お婆さん   いつでも来んさい。ほれ、その魔法の瓶あげるよ。
高校生   あはは、魔法の瓶か。ありがとう。
●高校生ハケ。お婆さんハケ。照明元に戻る。
作品名:婆ちゃんのラムネ 作家名:月とコンビニ