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秋月かのん
秋月かのん
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第1章   13話   『とある日曜の家探し』

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「♪♪♪~」

明日香はえらくご機嫌で鼻歌を歌いながらキッチンで夕飯の支度に勤しんでいた。
それもそのはず。例のアレを明日香に伝えたからだ。

そう、日曜に虹ヶ坂公園でみんなで花見をするっていうただそれだけの春だけの期間限定かつ恒例の凡人的イベントにすぎんのにどうしてそこまで上機嫌になれるんだろうなって毎度ながら関心するばかりだ。…期間限定って辺りはかえでが好きそうだな。

まぁ、そんなちょっとした小さなイベントでも明日香にすれば大きなイベントに早替わりになってしまい、どんな些細なことでも楽しんでしまうのだ。
我が妹ながら尊敬するぜ。

まぁ、そんなこんなで明日香にそれを伝えてからそんな調子でウキウキ気分全開で夕飯の支度をするのであった。…今にも踊りだすんじゃないか?

「♪♪♪~」

ってもう踊ってるし。
つーか回転しながら皿を並べたり、さらには、野菜をまるでピアノを弾くが如く綺麗に刻んでいるではないか。…もはや人間技ではないな、これは。

「おい、明日香。嬉しいのはわかるが、でも、ちょっと落ち着け。別に日曜の花見は逃げないんだからさ」

そろそろツッコんだ方がいいと思い、俺は明日香に落ち着くように言っていた。

「うん♪わかってるよ♪」

本当にわかってるのか?口調が浮いてるぞ。

「な~に?お兄ちゃん。その信用してない顔は。これでも、楽しいのと嬉しいのを抑えて落ち着かせてるんだよ。これを解放したらもっと凄いんだよ」

「さらっと怖いことを言うんじゃない」

確かに今日のはまだ大人しい方の部類に入るかもな。
もし、明日香の言うようにこのリミットを解除させたりなんかしたら…踊りまわるどころの騒ぎじゃないな。

そんなことになったら、冬姫、かえでを総動員しても止められる自信がないな。
そう考えると、まぁ、これくらいならよしとするか。

「よし♪でっきあっがり~♪お兄ちゃん、ご飯できたよ~♪」

明日香のルンルン♪ボイスが俺の耳に入ってくる。
…美味そうな匂いだ。

「おう。今、行く~」

「お~☆これはまた美味しそうだね☆あたしお腹ぺこぺこだったんだぁ」

いつの間にかやって来ていたかえでは、来るやいなや真っ先に明日香のいるキッチンに向かっていた。…さて、どこからツッコむべきなんだろうな、俺は。

「お兄ちゃん~はっやくおいでよ~♪♪」

「春斗~来ないとあたしがこの明日香シェフのフルコースを全部食べちゃうぞ~☆ついでに明日香もいっただき~☆ぐふふふ」

まぁいいか。取り敢えず今は明日香の作ってくれた夕飯を食べるとしようじゃないか。
俺も腹が減ったからな。
…っていうかかえで、お前今、さりげなくとんでもないこと言わなかったか?

「…いや、気のせいか。そうだな、そういうことにしておこう」

よっこらしょっとソファーから立ち上がると、俺は、明日香の美味しいご飯をご相伴に与ろうと赴くのだった。




「…はぁ…はぁ…はぁ」

…かなりのダメージを受けてしまいましたですの。さすがの私も彼には敵いませんですの。
こうやって一瞬の隙を見つけ、隠れながら逃げるのが精一杯ですの。
私は、彼との戦闘により負傷してしまい、今もこうやって暗い森の中を逃げ回っている。

ご主人様の元に急がないといけないですのに。…あともうすぐでこの森を抜けられるっていうのに、彼があんなところにいたら出られませんですの。息を潜めて生い茂る草の陰からゆっくりと様子を窺ってみる。

「くそったれめぇッ!!あの馬鹿どこに行きやがった。この俺様に下等魔法なんかにハメやがって。ぜってー許さんッ!!許さんぞおおおおおッ!!!」

彼は眉間にしわを寄せて、森の出口で待ち伏せしていた。
うぅ~まだ、ひつこくいますですの。早くどこかに行ってくださいましですの。
通じないとわかって私はあっちへ行け~あっちに行け~と念じて、両手でも向こうに行くよう力一杯右から左へスライドさせてみた。

きっと彼が見ていたら、『馬鹿かお前』って言うに決まってますの。
…いっつも私のことを馬鹿にしやがりますので、ホント嫌いですの。
ってそんなこと考えてる場合じゃないですの。一刻も早くここから抜け出さなければ…。

でも、彼があーやって通せんぼしてますので、進めませんですの。
…どうしたらいいですの?ご主人様に危機が迫っているというのに…急がないといけませんですのに…うぅ。

「…やはり、ここは強行突破しかありませんですのね」

いつまでもこんなところでじっとしていても仕方ないですし、それに、見つかるのも時間の問題でしょうし…仕方ないですの。でも、私なんかが威勢よく向かっていって敵う相手じゃないので返り討ちにされる可能性100%…でしょうね。

いやいや、ダメですの。そんなネガティブ思考では、もっとポジティブに考えましょう。
そうですの、行動あるのみ…ですの!!
そう思い立った瞬間、私は、草むらから飛び出していた。

「とりゃ~っ!!どいてくださいですの~!!」

「ムッ!!!見つけたぞ、そこかぁッ!!待ちやがれぇッ!!」

私を見つけると彼は全速力で私の後を追ってくる。

「この馬鹿ッ!!今ならまだ間に合う。引き返せッ!!この森を出て行くことの意味を知らないわけじゃないだろうが」

「知ってますですの。でも、私は行かなければいけないのですのッ!!」

彼の言うことはわかりますですの。でも…!!

「…そうか。そこまで言うんじゃしょうがねぇッ!!力ずくで止めるしかねぇッ!!覚悟しやがれッ!!」

彼は手をかざし、魔法の詠唱を始めていた。

「…くぅっ!!やはり、わかってくれませんですの」

でも、今は戦っている場合じゃないですの。
取り敢えず今は、この森を抜けることだけを一番に考えましょう。
…待っていてくださいですの。ご主人様!!




「…さて、どうしたもんか」

聞いてくれ。俺は今、重大な難問ってか問題を抱えていた。…それは。

「すぅ…すぅ…すぅ」

自称、悪の最強ウィザードのヒカリが似つかわしいくらいの可愛らしい寝顔で寝息をたてて俺のベッドで寝ていた。

「…こいつ、どうすっかな」

つっついてみるか??それとも顔に悪戯書きでもしてやろうか??
…それがバレたら俺の命がなくなりそうだな。やめておこう。
しかし、何でこいつがここに…。これを語るには数分遡る必要がある。

まず、俺はいつもの如く昼前近くに目を覚ました。
…まぁ、今日は土曜だし、することなんかないからな。
惰眠を貪るには打ってつけの日和であろう。

それに、昨日の夜から降っていた雨もすっかり止んで、晴々としたいい天気だったからな。
それでだ、寝起きでダルい身体を何とか壊れかけたロボットのようにガクガクとぎこちない動きでゆっくりと起こし、いつもの倍、勢いに任せて口を大きく開いて大欠伸をした。

ってしまった!!調子に載ったら顎が外れそうになった。
まぁ、俺には死活問題だが、今はどうでもいいな。

そんなこんなで起きたわけなんだが、ふと、俺の腕に何か纏わり付く感覚というか違和感を感じたんだ。眠気眼でゆっくり視線を向けてみると、そこには俺の腕を抱き枕のようにしがみ付くヒカリの姿があった。