魔王と勇者の研究室
「そんなもの医者が治せるわけないだろ、それは魔力を使った呪いだ、貴様は誰かにその呪いをかけられたのだ」
「そんなっ! どうして……」
「人間の事情なんざ知ったことか」
ルインが述べるには、呪いをかけた犯人は分からず、また治す方法も対応する魔力をぶつけるしか方法は無く、そんな魔力はルインも扱えないらしい。
「魔力は強ければいいという訳ではない、属性相性なども関わってくるのだ」
「じゃあ、寿命は?」
「それは心配ない、治すことはできんが呪いの進行を停滞させる事はできるのだ」
ならば呪いであろうが病気であろうが関係はないではないか。
どうせシオンに未来などないのだから。と思ったが、
「まともな心臓にしてやる、と約束したからなぁ…、仕方ない、魔力を大サービスしてやるか」
「あ、いえ、生きることができるのなら……」
「貴様のあんな嬉しそうな顔を無かったことに出来るものか、いいからサービスされてろ」
病気と呪いの違いは解くことが容易いか否か、いじるのが容易いか否かの問題であった。
だが、ルインは過程にかかるコストは度外視した。
両親とアルフレッド以外に優しさを感じたのは何年ぶりだろうか。
そんなことを考えながら、気付くとシオンは涙を流していた。
「そんなに嬉しいのかよ」
これを使え、とルインはハンカチを貸してくれた。
ハンカチを手渡したルインは、子供をあやすような優しい表情をしていた。
悪魔とはこうも人間と分かりあい、分かち合う事ができるものであったとは知りもしなかった。
しかし元々、魔力を悪用したのも関係を断絶したのも人間なのだ。
何も悪魔は疎まれるべき存在でも穢れた生物でもないのだ。
「ねぇ、ルインって呼んでもいいかしら」
「好きにしろ、俺も貴様を勝手にシオンと呼ばせてもらうぞ」
かくして魔王と少女の生活は始まった。