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私の読む 「宇津保物語」  楼上 下 ー2-

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(切な願いに答えてくれなかったら、何を後の記念にしよう。何もないだろう。今宵の世にもあわれな琴の音を何時何時までも形見にしよう)

 と、お詠いになったので、人々は賞賛された。

「もう少し弾くように」

 と、仰ったので、内侍督は、

「この頃気分が優れないためですか、これ以上は無理で御座います」

 演奏を途中で止められた。

 朱雀院は、この度は中々飽きることなく、内侍督に、

 琴の音のあかざりしよりしら雲の おりゐてけふぞ うれしかりける
(貴女の琴の音を忘れかねて退位して良かった。気軽に来られて今日は嬉しい)

 内侍督の返事は、

 ちりつもる山もなにせん雲かゝる ことのほかなる 宿をうれしみ
(山ならぬこんな茅屋に思いかけず白雲(帝)が降りて宿となった喜びをどう言って表しましょう)

 身にしみじみ嬉しゅう御座います。

 と、返事をする内侍督の姿がとても美しいので、朱雀院は、どうしてこのように尚侍は万事につけて行き届いているのだろうと思う。


 内侍督は孫の犬宮に、りゅうかく風を普通の琴の調子にしないで弾かせてみようと思い、りゅうかく風を与えて弾かせて見られる。

 院は、
「調子が変わったがどうしたのだ」

 と、お尋ねになる。りゅうかく風の音は暁には変わって聞こえる、と尚侍は自分が弾いているように見せかける。

 暁になったのに、琴の音は大変に面白く、合わせる楽の音は、鼓の調子を少し整えて、あらゆる楽の音が琴の音に押し入るように入ってきて、それでもりゅうかく風の琴の音が合わせる他の楽器の上に乗るようにして澄み響く様子は、仲忠より手が勝れている。

 仲忠だけがなんとなく琴の音がおかしい、母の音でなくて犬宮が弾いている、犬宮にしては上手すぎるが、やはり犬宮だろう、と感じる。