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私の読む「宇津保物語」 國 譲 中

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(すっと続いて松ばかりが茂っている住吉は、下葉も枝も紅葉しない常磐の松ですよ)

 私は平静です。何事もこうではあってはならない」

 と、。言う文面を正頼が読んで。
「こう仰るのだから参内をしなさい」

 藤壺
「どうして参内なんかしましょう。梨壺が参内なさるでしょう。妃達が居ないのでお淋しいのでしょう」

 と、正頼に言って返事を書く。


 深山木の下には風の早くとも
枝木は露もすぐなとぞ思ふ
(深山木の下は風が早く吹こうとも、外に見える枝木は露に濡れそぼたないで欲しいと思います)

 数の中に入らない私の浮沈をご同情下さいますか」

 と、だけの文であった。

 この生まれた子供を「今宮」という名前にした。お湯に入って眠った今宮を大宮は抱いて、
「風情のある赤子である。ただの若宮です。この子を私の子供にしよう」


 一宮は五月に懐妊する。先の犬宮誕生に比べてこの度は悪阻が酷いが、夫の仲忠にはそのことは言わなかった。

 けれども、あまりの苦しさに仲忠が知り、妊娠とは知らないので心配をして騒ぎ、病気平癒の祈祷を所々に御修法(みずほう)を行わせて、外出をしない。

 母親の仁寿殿も内裏に上がって看護に訪れないので、仲忠は夜も昼も医師(くずし)陰陽師(おんようし)修験者などを迎えて日夜看病をしていると、弾正の宮(一宮の弟)が訪れて一宮と話をする。

 一宮
「藤壺が里に居られる間に訪問をして話をしようと思うが、この月頃は正頼や他の人がお出でになるので、初めは訪問をしていたが、周囲がやかましくて何も申さずに立ち去りました。

 藤壺は人の気持ちをよく察するお方ですね。新中納言の実忠を推挙なさったところを見ると」

 弾正宮
「私の気持ちをお知りにならないらしい」

 一宮
「そう言われたのですか。大宮がその様なことを言っておられました」

 弾正宮
「甲斐のないことで。人は余り馬鹿にされていると、過失をしても誰もが気にされない。私も無視されている一人です。

 私が子供だったので、藤壺に近づく機会はあったが周囲の人の心を考慮して遠慮をしてしまったのです。

 今の自分であればくよくよしてはいなかったでしょう」

 一宮
「まあ、みっともない、なんということを仰るのです。藤壺を含めて貴方のそういう心掛けは一般に相手の心を傷つけるのです。姿や動作を冗談であっても言葉にすることは謹むものです」

「人はそう仰るらしい。心ある人はそう仰るということを知りました。今はこのようにしているのですから、実を言うと何とも思ってはいません。

 世の中が平和になったら、正頼がたとえ太政大臣になっても、藤壺が自分に辛く当たった仕返しをしようと思う」

 と、言うので一宮は大変恐怖を感じる。

 仲忠が話しに加わって、
「今のところは医師に問うてみると、普通の熱であろうと申していました。陰陽師は憑きものだと申します。それで真言院の律師である忠こそを呼びにやりました。来たら護身法をして戴きましょう。

 三条の父兼雅から話したいことがあると度々使者が来ましたので、。この間に参ってみようと思います」

 と、言って出て行った。