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私の読む「宇津保物語」 國 譲 上 ー3-

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 藤壺の子供達も」産まれたのであるが、その寝殿は今は外の方のお住まいになっている。お産があるから空けて欲しいと言うことも出来ない。この殿で出産することにして準備を致しましょう。場所は問題ないでしょう」

 と、仰ってあらかじめ安産祈願の修法を行った。

 山々寺々に祈祷の師を置いて、祈祷文を読ませる。

「思っていたことに疑問が生じました。無事に思っていたとおりになりますように。この度のお産が安らかでありますように」

 と、苛々して手を動かして、祈願をさせた。

 正頼は梨壺が男子を産んだと聞いて、梨壺の子が皇太子になるのではないかと疑う。

 藤壺
「その様なことを春宮がご存じない筈はない。例え、天下の絶対権を持つ院の方の腹に生まれようと、もしやなどと心配なさることはない」

 いろいろと考えて藤壺の両親は考えるが、藤壺は、嘆くこともなく冷静であった。

 月の半ばになった。亡くなった太政大臣の四十九日が、四月六日に当たるので、法事が終わって暫くして、朱雀帝は仲忠を在位の間に大納言に決めておこうと、差し当たって太政大臣が空位であっても政治に差し障りはないのであるが、次に太政大臣になる忠雅は年は若いが、仲忠を大納言に昇進させることは捨ててはおけない。

 そこで、大臣の任命をする行事「大臣召」
を開くことはやむを得ないかと帝は思いになる。

 右大臣の正頼は、この度の大臣召には中納言に欠員があるので、どうにかして自分の一族の実忠を任命して貰いたいと思うほどに、賀茂祭りが終わって二十二日に大臣召が開かれることになった。

 殿上人達は大臣召の準備を始める。太政大臣の喪に関係がない兼雅が今回は懸命になって準備をする。仲忠は下に降りて行事の指揮を執る。

 当日になる。全員が参内する。

 左大臣忠雅は太政大臣、右大臣は左大臣、左大将の兼雅は右大臣に、大納言に右大将仲忠が昇任する。

 中納言には。帝は正頼の子供の祐純、正頼は実忠をと考える。帝は、

「早く決定しなさい」

 と言われるので、右大臣の正頼は、
「順番では師純朝臣であります。左大辨師純兵衛督を越えて外の者が昇進することは許しません。

 そうではありますが、正頼が考えますのは、
故太政大臣が臨終の際に、その旨を伝えて呼
戻しました実忠のことを、臨終に際して大臣は他のことは申さず、実忠朝臣のことばかり繰り返し申しましたから、正頼は、我が子を捨てても実忠を引き立てましょうと申しましたら、喜んで亡くなりました。

 この度の中納言は実忠に与えてください」

 と、申し上げると帝は、
「師純朝臣が中納言になるのは当然である。しかし私が考えるのは、祐純は中納言になるには位が低すぎるが、分不相応な越位の例がないわけでもないから、私は祐純朝臣を中納言にしたい。

 実忠朝臣は宰相で充分である。不足や不満を言う身分ではない。此の世から隠遁した者に官職は必要ではない」

 と、仰せになったので正頼は、
「今、親が居る者が昇進して、親を失った者が昇進できなかったら、季明の霊がどう思うかと気の毒で悲しゅう御座います。隠遁した者にとっては、死んだ後に位を贈るという例も御座いましょう。まして生きているのにどうして昇進をしない、と言うようなことがりますか」

 と、申し上げるので、帝は、
「そうであるなら、考えが有るのだろうから計画どおりにすればよろしい」

 と、仰せになったので、実忠宰相を中納言に昇進させた。正頼の子供達で当然昇進する筈の者は、「おかしな事だ」と思う。宰相には実頼頭中将が昇任した。その他の人事も決まる。

 そうして退出する、忠雅、兼雅、仲忠三人は仁寿殿女御の許へ昇任の礼を言いに向かう。仲忠は、
「度々の昇進のお礼を此方へ申しに参りました。一宮のお陰でなければ、大納言の職に就けるはずもない私が、こうして昇進できましたことを、一宮の母である貴女に謹んで感謝し、一方私の喜びを申し上げたくて、参上いたしました」

 仁寿殿女御
「それはお門違いでありましょう」

 仲忠の父の兼雅も同じ気持ちで立っていた。仲忠は女御に深く頭を下げて拝された。それを見ていた后は、妬ましいと思った。

 そうして今日は新太政大臣忠雅の就任祝いの宴会に兼雅・正頼の両家やその他関係する者全員が参加した。

 次の日、正頼が左大臣の就任祝いをする予定であったが、後で述べる忌み事があって一日順延して明日になった。

 藤壺の住む西の対に、大宮も正頼も居るので、兼雅が大宮にお喜びを申し上げに参上した。

 急な来訪で驚きながらも廂に座を作って対面された。兼雅は、

「すぐにお伺いしようと思いましたが、昨日は太政大臣の宴会がありまして、少し飲み過ぎまして」

 大宮
「大変嬉しいお喜びで、普通のことよりも喜ばしいことです。

 藤壺が珍しくもないお産で此方におりますので、最初のお産でも晴れ晴れしいことはなかったので、次々のお産も男の子で見栄えが致しませんが、此方で面倒を見なければなりませんので、こうして此処に控えているので御座います」

 兼雅
「とんでも無いことで。人が皆羨ましく思っていますよ、皇子出産という事に優る事が御座いません。今世間の人は、やがて帝と成られる方と思っています」

 大宮
「そう申されても、私がその様なことに慣れてませんので、藤壺の姉の仁寿殿女御とその子供達がこの殿に大勢いますが、この後のことが心配で」

 兼雅
「他人行儀でお話になりますが、兼雅の後は、大きな子仲忠も童犬宮も皆大宮と親戚となりますから、他人のような振る舞いをしようとは思いません。近い犬宮、遠い梨壺の子供にしても此方にお世話を願いたいと思っています。

 藤壺の第一皇子は此の世の人とは思われない立派な方であるので、将来立坊(皇太子)されて此方が外威におなりでしょう。

 とりわけ、このようにまだまだ遠いはずの大臣職に就きましたので、私の将来は短いように感じています」

「なんととんでも無いことを。貴方の親御ほどの老人でもそんなことはお考えになりませんのに」

「万事安心して・・・・・」

 と言って兼雅は大宮の前から立ち去った。

大宮は見送りながら思う、
「そうは言っても、私達のために悪いようなことはなさらないであろう」


 昼頃に新右大臣忠雅が、一宮を訪ねられた。そうして藤壺に消息を伝える。

「をわり法師のようななんの役にも立たない名誉職ではありますが、貴女には申し上げないではいられない」

 宰相祐純を通してお伝えになった。その返事は、

「私までもご消息を戴きまして有り難う御座います。そう仰るので、私には時世が分かるような気がいたします」


 帰るとすぐ仲忠は、華やかに派手な装束をして、大宮の許に参上をして拝伏して大宮にお礼を申し上げる。

 近純、蔵人少将を通して、
「暫くお側でお話を申し上げなければ、と思っていましたが、彼方此方に喜びの挨拶をしたいので、これで失礼を致します」

 と、伝えて大宮の前を離れるのを、大宮も藤壺も一つの御簾の中におられて、