私の読む「宇津保物語」 國 譲 上 ー2-
と、言って琴をを弾き合奏を楽しんでいるところに、仲忠が妻の一宮を迎えに藤壺殿にやってきた。
琴を弾き合奏をしているのが聴こえてきたので、こっそりと近づいて高欄の下で聴いているのを殿の誰も気がつかない。
いろいろな手法で合奏が進んでいくのを聴いていて仲忠は、思った。
「どうして藤壺は、自分が清涼殿で弾いた手で演奏をしているのだろう。宮中に勤めている者であれば参殿をして聴いたであろうが。これはおかしなことである」
と、驚いていた。(コメントへ)
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琴の音が一つに合って、面白い曲を演奏するのに夢中になって、藤壺達は人が近くに来て聴いているのに気がつかなかった。
宰相中将祐純、弟近純蔵人少将、宮あこの侍従達は格子の内側で母屋の御簾を上げて演奏を聴いていた。
仲忠は階段をゆっくりと上って格子と御簾の間から見ようと穴を捜すが、とても造りが立派で隙間がない。部屋に入る方法がないので、どうしようかと立っていた。その様な中で演奏会は夜半まで続いた。
藤壺と一宮は、遊びが済んで料理などを食べて休もうと、横になろうとしているところに、仲忠はわざと大きな咳などをして、
「孫王女房は此方か」
と声を出すと、宮達や藤壺が驚いて、藤壺は一宮に
「嫌だはね、どうしたことでしょう。仲忠はいつもこのような無茶なことをなさいますの」
と言って黙って仕舞われた。祐純驚いてお出でになって、仲忠の座を造りなどと迎えを整えると仲忠は、
「此処へ宿直に参ったのです。貴方の宿直の場所に行きましょう」
と言うので、中に招じ入れてる。
仲忠が南向きの居間にいる。南と西の隅にある縁を刳り物にした変わった屏風、座った座布団は縁が唐錦で作られてある。いづれも涼中将が調えた。
宮達や藤壺は仲忠が気の毒になり奥に入られた。仲忠、祐純は部屋の内に、それ以外の正頼の子供達と供の者は格子の外の簀の子にいた。
仲忠は女房の孫王を通して一宮に
「三条(父兼雅と母が住む)に行きまして、帰りが今になりました。気に掛かりお迎えに上がりました。今夜はお帰りには成りませんか」
と尋ねると、一宮は
「藤壺には久しぶりにやっとお会いしたので、しばらくは此処にいたいと思います。犬宮を置いて参りましたので、よろしくお願いいたします」
仲忠は、私を乳母扱いなさるのは、以ての外である、と思う。
夜が更けていくので祐純は、
「おかしな事に今夜は昔そぞろ歩きをしたことを思い出しました。貴方もこうしてお歩きになったのでしょう」
お互いに話していると夜が明けたので仲忠は早朝に帰って行った。一宮に文を置た。
「昨夜の貴女と藤壺の合奏を、長い間聴いていました。久しぶりです、
調ぶとは音にぞ聞きし琴の音を
まことにかともひきし宵かな
(琴を弾くとは評判に聞いていたが、その音を昨夜本当に聴くことが出来て嬉しかった)(渡す相手は一宮であるが、内容は多分に藤壺を意識している)
帰りまして一人淋しく丸くなって寝ると致します。内裏からお召しが有れば参殿いたします。またお迎えに」
藤壺
「思った通り、大層早く文を送られたものだ」
と大層可笑しくて笑っていた。
一宮
「貴女はお考えなさるな。以前でも音楽は貴女だけが出来ると言っていたぐらいですから、まして今は珍しい手で弾かれるので、大変に上達されたと仲忠はお聴きになったことでしょう。
私の琴の演奏を下手な奴と思われたでしょう。私の琴の手は全部仲忠は聴いていますから
二宮の箏の琴は将来に望みがあると言ってやればいいでしょう」
と言って返事は書かなかった。返事がないので仲忠は、どうしたのかなと思いながら参内して、夕方内裏より一宮に文を送った。
「退出しようとしていたら帝より、去年、朗読した文書を今日また始めようと仰るので、まだ全部をお読みになっておられない。
少し読みにくい部分があります。明日には夕方退出いたしましょう」
作品名:私の読む「宇津保物語」 國 譲 上 ー2- 作家名:陽高慈雨