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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー3 -

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『人に見せるではない』
 と、書いておられるので、お見せにならなかったのでしょう。
 御成長なされば藤壺様よりも美しくおなりになられるでしょう」

 聞いていた正頼は、
「さあ、美しくても、あまり騒ぐと聞き苦しいものだよ」

 と、仰って典に、衣櫃に女の装束一具、夜の装束 一具、絹三十匹綿を入れて渡された。


絵解
 この画は、涼の殿である。

 
 仲忠は。昼を過ごす部屋で犬宮を抱いて横になっていた。一宮も仲忠の側で寝ていた。

 涼からの内祝いの物、糸を藁に代わって使い、白い組緒で括って苞萓(あらまき)のようにして、中に腹赤に似せて赤絹を入れ、それを作り物の五葉の松の枝に付けたもの十枝、鯛と鯉をまるで生きたように造り、これも造り物の五葉の松の枝に付けた。

 銀の造り物の雉の腹には、黒方(香料)を丸めて入れ、鳩の腹には金塊、小鳥は黒方を丸めて造った。

 折櫃には銀、沈の鰹、黒方で壺焼きの鮑、海松(みる)海苔は糸で、甘海苔は綿を染めて、それらを納めた折り櫃の底には綾を敷いて、衝重には蘇枋で造った食べ物を入れた。

 仲忠がこしらえた州浜を見ると、涼の筆跡で、

 行く水のすむ影君にかふるまで
       汀の鶴は生ひもたたなむ (絶え間なく流れる水が澄んで、あなたの影が移り住み、汀に立った鶴があなたに代わるほど成長してくれるといい)

 と、詠ってあり、昨夜の賭の銭も一袋忘れていると白い餌袋一つを添えて、

「人は将来のことを考えて銭を大切にするのに、あなたは自分の物になった碁代さえすっかり忘れておいでになるのですからね。お金に汚い上達部がおりますのにね」

 と、涼の消息文があり、仲忠の返書は、

「碁代を預けてきましたから、黄金に変わったのでしょう。どうでしょう」

 例の産婆役の内侍典。、装束を美しき着こなして仲忠の前に現れて、

「犬宮が恋しくなりまして、今日と明日と居るように頼まれましたが、急いで此方へ伺いました」

 仲忠
「それは大変に嬉しいことです。この頃心配をしていたのです。今宮の皆さんはいかがですか、大勢が集まっておいでのように聞こえましたが、何人いらっしゃったのですか」

 内侍典
「二宮、忠俊の北方(七宮)、宰相実正の北方(三君)、左大臣忠雅の北方(六君)などがおられました」

 仲忠
「どなたが、器量が勝っておいでかな」

 内侍典
「それぞれがお美しくて、取り立ててこの方とは言えません」
 
 仲忠
「二宮は裳儀もお済みになり、綺麗だろう」

「まだお小さくて、何とも申せません」

「お顔立ちはどうなんだ」

「恐れ多いことですが、他の人々とは違って、か弱くお見えになったのも、よろしいのでは」

 女一宮
「本当にこの宮はお美しいですよ。美人系でその上皇女でいらっしゃいますからね。こんな綺麗な方はよそでは見られません。

 髪が肩に掛かって扇のように開いた様子などは見飽きません様になられたでしょうから、私も一度は見てみたいと思います。」

 仲忠
「髪も顔の形も美しい人は見ましたよ。ここにいらっしゃる宮と中の君とは特にお髪が珍しいほどご立派です。一宮のような御髪は他では見られませんね」

 一宮
「まあ、嫌なお方。顔かたちは歳によりますもの。髪なども大事にしないで放っておりますのに、あちらは女御が夜昼おそばで大切になさっておいでです。それはもう比較になりませんは」

 仲忠
「貴女のようだという評判ですから、二宮は美しいと思うのですよ。二宮は藤壺に似ていると聞いています」

 仲忠
「内侍典、一宮のお顔はどう思うかな」

「藤壺によく似ていらっしゃって、大層お綺麗です」

 仲忠
「お会いしたこともないお方と比べられても、仲忠分からないぞ」

「お会いになったことがあるように聞いていますが」 
「それでは、源中納言の北方、今宮は如何じゃ」

 内侍典
「今宮は、こちらの一宮をお若くした様な、すっきりしたお方です。どのお方も清楚なお方です」

一の宮は、内侍典の褒め言葉に驚いて、
「なんということを言われます。聞いてはいられません」

 仲忠
「夢でも御覧になったのか、それとも人が何か言ったのですか。

 それはそうと、涼中納言と今宮の仲はどうなんですか。涼は私が犬宮を抱くように、稚児を抱いていますか」

 内侍典
「お二人の仲は大変宜しいとの評判で御座います。今宮が病に苦しんでいたときは、中納言も困って泣いておられました。生まれた赤子はよく御覧にはなっておられます、怖がってお抱きにはなりません」

 仲忠
「涼が子供はまだ見ていないと言ったから、おかしいと思ったよ」

 そういう話をして内侍典は犬宮を抱いて奥に入っていった。

 仲忠
「貴女も起きあがって、昨夜私が招かれて行った涼の産養の被物を見てご覧なさい。この品々は取って置きなさい。こういう品はまさかの時に手に入るのが難しいから」

 と言われたので一宮は起きあがって、昨夜の被物を見る。仲忠は、

「皆さんはこのようなことをなさいます。実際涼という人は不思議なほど調度や装束を珍しく、立派に、揃えるところがあります。

 この袿と添え物は御前に差し上げなさい。唐衣と添え物は、母上の仁寿殿に、内裏に参内なされる際に御料として差し上げなさい」

 一宮
「片方は、三条の内侍督に差し上げましょう」

 仲忠
「それは、母上には似合いませんよ。家の隅に閉じ籠もっているような女の着るようなものではありません」

 色々と話し合いながら仲忠は一宮の側に一日居て、次の日、
「三条ですることがありますから」

 と、装束をきちんと決めて、香を薫らせて出かけて行った。

 仲忠は三条殿に到着して、南の御殿を見ると、清らかに片づいていた。

 暫くしていると仲忠の友人達が車を持ってきた。涼中納言からは、新しい黄金造りの新車に男達が二十人ばかり揃いの装束で選ばれた者達が付いてきた。

 糸毛の車には、身分の低い男達に束帯装束させて、三十人ばかりが従っていた。

 前は四位十人、五位二十人、六位三十人、が付いていた。仲忠大将は、

「馬に鞍を置いて、内緒の通い先から帰る男達のように引き連れて三条殿に行きなさい」

 と、言い置いて自分は父親の兼雅と同じ車に乗り込んで、二人ばかりの供を連れて朝早くに一條殿に向かった。到着すると仲忠は西の門で下車をして、真っ直ぐ三宮の許に向かう。

 左大将の兼雅はそっと式部卿の中の君の住居へ行って見ると、破れた屏風が一双、夏の帷子の煤けた几帳一つ二つ立てて、中の君は所々破れて煤けた綾の掻練の袿を重ねて、煤けた火桶に僅かに炭火をおこして、食台一つ、白い陶器の茶碗に少しだけお粥をいれて、おかずは山椒、蕪の漬け物、黒塩ばかり
夜の食事とも朝の食事ともつかず、それを食している。

 君の前には古くなった革の蒔絵の梨地の箱や、同じような蒔絵の硯箱を置いて、櫛の箱蓋を開けて、いつぞやの兼雅からの柑子の壺の残りを取り出して、乳母の娘や孫が中君の童として侍している。下仕えが一人いる。