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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー2-

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 そういう訳でそちらに参ることもしないでこの三条も誰彼がおりますから、気に入らないところもおありでしょう、と思いましてわざわざ申し上げることが出来ませんでした。

 こちらにおります俊蔭の娘を全くご存じなかったというわけでもありませんでしょう、ですからこのむさ苦しいところですが。、お移りになりませんか。

 そういうお考えになられましたら、私がお迎えに参上いたします。

 考えてみますと不思議な気がいたします。

 余所ながら多くの年も隔てけり
ころもうらみし時はいつぞも
(どうして長い間疎遠に過ぎたろうと思います。恨むという時さえなしに)

 仲忠に詳しいことはお聞きください。仰せごとは承るように言いつけましたから」

 仲忠は読んで、
「父上、見事にお書きになりました」

 と、言って文を巻き、
「今日は参内できませんから明日参内致します。三宮のことは色々考えますと、お労しく存じ上げることがあります」

 と、父兼雅にいうと、日が暮れてきたので、涼(すずし)中納言の許へ家司の中で気のよく付く者を使いに出した。そうして。仲忠は父の許を去った。

 仲忠は夜にはいると髪を梳かせて入浴をしていると。、涼から返事が来た。

「犬上のとこの山なるなとり川
   いさとこたへよ我名もらすな(古今和歌集1108) 
 みちのくにありといふなるなとり川
なき名とりてはくるしかりけり(古今和歌集628忠岑)
 と言う歌がありますが。、そのようにお答えいたします」

 と、あった。両方の使者ともそれぞれ色々な禄を戴いた。

 こうして仲忠は床についた。
 翌朝一宮に、
「今日は、逢うのが気恥ずかしいほどのお方にお会いします。三宮のところです」

 と、言って起床して、立派な直衣装束を取り出して、しっかり香を薫(た)きしめさせて・・・・・・・。宮たちが走り回るのを見て、

「丹後の乳母が不平や小言を言う貴女の髪を乱さなかった。恨み言を言われなくてすみそうだ」

 一条殿は二町の広さがある。従って門は二つある。
 中の寝殿には宮が住み、その東西に対の屋があり渡殿が皆付属している。

 寝殿から東の対屋にかけて宮がお住みになる。ほかの対には、兼雅の子供を一人出産した人や、昔兼雅の寵を得て全盛だった夫人たちが、対屋の一つに部屋を一つづつ貰って住んでいる。

 池が趣向を凝らして作られてあり、庭を囲む木立も興味ある配置である。その庭園も昨今少しずつ壊れかけている。

 これを梨壺の母親三宮に父親の兼雅が差し上げるならば、梨壺の母親もお住みになるであろう。

 他の夫人たちは上達部、皇子の娘であるのだが、親も見捨てになられ、ただ大殿の兼雅に頼り切っているので、今このように兼雅の寵を失っても、この対屋を離れていくことが出来ない。使われていた各夫人の女房も、見込みのない夫人を見限って立ち去ってしまっている。

 このような折りに仲忠が二つの対の南側のところで、丹後の掾(じょう)を従え文を持たせて、宮住まいの方へ来られたのを、この屋に住む夫人達の召使い達がそれを見ていて、お互いが言っている。

「私たちの主人から大殿の兼雅様を奪い取った内侍督(仲忠の母)の一族が冗談にも程があるのに途方もない願文を捧げ持って、寺と間違えてやってきましたよ」

 と、集まって来て、救い主が来たかのように手を摺り合わせて拝む者もいる。またある者は口に呪文を唱えながら眺めている。夫人達は、

「騒がしいぞ。このような立派なお子をお持ちの俊蔭の娘をどうして疎かに扱うことが出来ようか。

 すべてのことは自分の運が尽きたことである」

 と、伏して泣く者もあり、中には自分を忘れて仲忠を褒める夫人もいる。

 こんな騒ぎの中を静かに仲忠は歩いて、多くの供人とともに寝殿の階段下に並ぶと童四人に女房が十人ばかりが高欄に並んで、

「右大将仲忠様がお見えです」

 中にいる三宮に告げる。

「来ていただくようなご用はないが、間違いではないか」

 宮が伝言で答えると、仲忠は、
「父兼雅の使いで申し上げることがございまして」

 と、申し上げると、南の廂に褥を敷いて座を作り、きれいな童が出てきて、

「此方へどうぞ」

 と、言うので、仲忠は中に入った。

 仲忠
「度々参上いたしたいと思うのですが、いつも忙しくて、本日は、父兼雅が、

『この文を他人から渡せば信用なさらないかもしれない。しっかり御覧になられるようにお渡しせよ』

 と、申しつけられまして、ここに持参いたしました」

 と、仲忠は三宮に兼雅の文を差し上げた。

 三宮
「おっしゃるとおり貴方のような方がお越しにならなければ、思い出しも致しませんでした」

 と、三宮は言うと文を開いてみる。

「変なこと、あのお方が、真のお気持ちでこの文をお書きになったのであろうか」

 と、宮が言うので仲忠は、

「とんでもないことで御座います。どうして偽りの文などを書きましょう。父は

『三条殿には大勢住んでおいでだから、昔のようにはいかないでしょう。さしづめ不愉快な事がおありでしょうが、それでも此方にお渡り願いたい』

 と、申しています。三条堀川殿には人がおりません。私の母だけが女主のように宿守りをしています」

 三宮
「その女宿守の人が、多くのがさがさした考えのない女達より私は恥ずかしいのです。時々お会いしたときなども、不快なことをなさったのに、どうした巡り合わせでしょう」

 仲忠

「その様なことはありません。いつもあなた様のことを悲しんで父に申していました。それを思い出して父は、こうして申し上げるのです」

 三宮
「私の生涯はこのままでも生きていけるでしょう。ただ父の嵯峨院が、

『私の面目を潰すような者が生きているのが気がかりだ』

 と、仰るのを聞くのが情けなくて悲しいのです」

 と、言うと泣かれて、

「何も気の強いことを言ったからとて、勇ましいわけではありません。ただ兼雅がわたしのことを考えてくれた、と父嵯峨院の耳に入ればよろしいのです。良きも悪きも、いずれにしてもこれはと人に見られるし聞かれもするぐらいに言い交わした女が忘れられてしまうほど情けないことはありません。

 賢いお方で申し分のない北方(仲忠母)が現在いるのに、そこへ私がどうして行かれる。と思いますが、折角お出でになった貴方に対しても仰るままに従いましょう」

 仲忠
「それは嬉しいことです。参上しました甲斐がありました。よく宮がご承諾なされたことです。二十五日頃にお迎えに参上いたします」

 と、申し上げて宮のご返事の文を頼むと、宮は、

「なにもそれには及びますまい。こう私が言ったとお伝えください」

 仲忠
「それでは、私がただ単にご訪問しただけと思われるでしょうから、その証として。、短い消息でも」

と、お願いをしていると、仲忠の供の者達は宮の家司に引き入れられて酒の馳走に預かる。仲忠にはおいしい果物。干物などを美しく盛って湯漬け、酒などを出される。