私の読む「宇津保物語」 蔵開きー2-
一の宮は御簾が明け払ったままであるので、そのままの姿が見られて、屏風などを取り出して周りを囲んで見えないようにする。仲忠は、
「何でもない。そのままでもいいのに。さあ、お髪を早く乾してしまいなさい。あちらにも厨子は沢山ありますのに」
と、仁寿殿女御に言われる。さらに、
「今朝方、帝のお許しがありましたので、急いで帰って参りました。色々とお話ししたいことがありましたが少し気分が悪う御座いまして、暫時休んでおりました」
帝が色々と仰る中で、
『仁寿殿が宮中に戻らないのは、仲忠が犬宮の乳母に使っているのじゃ』
と、言われました」
仁寿殿は、
「そういうものなのでしょうかね、見るのと聞くのとでは大変な違いだとは言いますが、今ではこの犬宮をあやさずには居られなくなりました。自分の産んだ宮達の顔を覚える前に、急ぎ参内いたしましたので、その後のことは全く知りません。
この犬宮は、初めから見まして、お口にもの入れも致しました。そのような可愛い孫姫を振り捨てて参内出来ません。
宮中で見栄を張って気を配る毎日の宮仕え。そのような気遣いなく送れる毎日ですから、忙しいなどは感じません」
父の正頼、
「どうしてそのように考えるのか、兄弟姉妹の中で仁寿殿が一番幸福な身分であるのに。この仁寿殿の子供達を少しの怪我も無く、五体満足に育て上げて、それぞれ頼もしい姿で走り回り、一緒に集まって遊び、その様子を見ていると、私はよくぞ娘を持った物だと有り難く思っています」
仁寿殿
「このお婿さんをこうして見てみると、天下の后の位なんか羨ましいとは思えません。一の宮は、過去も未来も比べる人がいないほど幸福である。そのことを本人は一向に思っていらっしゃらない」
仲忠は笑って、
「お側で聞いていられないようなことを仰います。そうお褒めの言葉を頂きましても、一の宮は何とも思ってはおられません。私が犬に噛みつかれても見向きもなさらない方で、いつも私のことを気に入らないと思っておいでです。
それはそうと、お即位が近いようなことを帝は仰いました」
作品名:私の読む「宇津保物語」 蔵開きー2- 作家名:陽高慈雨