私の読む「宇津保物語」 蔵開きー1-
仲忠は、容貌や学問の点では私に勝るであろう。しかし、そなたに対する私の深い気持ちを超える者は居ないと思うよ。
こういう立場にある者は、妃一人を守ってはいないものだが、そなたに他の妃達を並べて見せるようなことはやるまいと今も将来も思っています。そなたが入内してからはことさらそういうことはしない。
梨壺だけは、心がおおらかだし姿も清らかである上に、親も分別がある。梨壺は仲忠の妹故に、仲忠が聞きはしないかと案じて、梨壺は時々側に呼ぶことがある。
それもするなとお言いならもうしませんよ」
藤壺
「大層妙なことを仰いますこと。
どの妃達も以前の通りなさってお出ででしたら、そうすれば宮仕えもしやすいでしょう。
そうでなかったら、大変聞こえが悪う御座いましょう」
春宮
「そうしたくないことだが、どうしようもありません。そなたほど私に物思いさせる方はいない。里へお下がりの時は夜昼思い続けていました。
是非行かねばならないことがあって退出なさっても、長居ばかりなさるから、どうしようかと思う。これから退出はなさるな」
藤壺
「それはご無理で御座います。どうしてお子達を見ないで居られましょう」
春宮
「それは呼び寄せてご覧になりなさい。私も会う。正頼達には宮中でお会いになるでしょう。母御の大宮には文でいろいろとお伝えすればいいでしょう。
そなたが里帰りをなさると、手持ち無沙汰で、拠り所がなくて、物も咽喉を通らないのですよ」
春宮はいろいろと仰って、これからは藤壺の退出を絶対に許さないと思う。
絵解
この画は藤壺で、仲忠、孫王が外に、春宮と藤壺が御簾の内にいる。
こんな事があって、仲忠は妹の梨壺の処に寄って話をして宮中を退出した。近衛の司では仲忠を待ち受けていた。就任の祝いを込めて楽器を奏しながら仲忠の殿まで供をする。
正頼の殿ではそういう昇進の祝いの時にするように宴席が準備されていた。
いつもの通り、中の大殿の南廂の前面庭に幄(あげばり)を張り巡らし宴席を作る。
近衛の中将・少将そのほか参集しない者は居ない。
祝宴は手落ちなく十分に準備をして、一夜を徹して楽を奏して充分に遊んだ。
暁近くに少将を初めとして上達部、参集した全員に被物を与えられた。上達部はこういうときに禄を受ける習慣がないのであるが、初めてのことであるから、身分に従って別々に禄を与えた。
宴会は朝まで続いて、全員が散会された。
(蔵びらき上 終わり)
作品名:私の読む「宇津保物語」 蔵開きー1- 作家名:陽高慈雨