私の読む「宇津保物語」 蔵開きー1-
「それは、私が人並みでないので、親子の中にも入れられず、お棄てになられたからです。昔は、鬼にでも与えられたそうですから。
あて宮は皇族ではいらっしゃらなく、正頼様が大事に囲っておられました。世の男性が思いを込めても何事もできなかった」
「では帝は、棄てる気持ちで宮を私にくださったのですね。ただ棄てられなさったのだ宮は。
でも、帝のご愛情は深くていらっしゃるのです。貴女と同様に私にも深い情愛を込めていただいています。」
本当に恐ろしいのは弾正の宮です。あまりお話しされず、妻もなく年月を送っておられます。何をお考えになっているのか分かりません。
しっかり見ていなさい、この宮はきっと何か事を起こされます」
「近頃、この屋敷の東対におられる、あて宮の、東宮の若宮様方の恐ろしいことは、この世に他はないでしょう。どのようにご成長なさるのでしょう。いづれは帝におなりになる方です」
「実は貴女の母君仁寿殿を、あの騒がしかった日の暁にお見かけいたしました。貴女とよく似た方ですね。内侍典が貴女の母上を忘れていたのがおかしな事です。
お姿は、気高く人に勝る方です。際だって目立つという風ではありませんが、見つめていたい、抱かれたい、だから帝は多くの妃の中で仁寿殿ばかりに渡られる。后はそのようなことで、籠もり臥しがちである」
「それぐらいの間柄は何処でも珍しいことではありません。涼中納言の北方、今宮(正頼十姫)は一つ上の姉である藤壺にも劣らない綺麗な方です。内裏の中にも彼女に勝る者はいません」
「恐ろしいことを言われる、気持ちが騒いで収まりません」
などと宮と仲忠は話しながら帳台に共に臥した。
正頼が参内して帝の前に立つ。帝、
「久しく私の前に現れなかったな」
「我が家で穢れがありましたので。そしてその後に病後の者の看病がありましたので」
帝、
「そんなことがあったそうだな。その後はいかがなんじゃ。この日頃、男どもがそちの家の宴会のことを面白がってしゃべっている。涼朝臣、行正も楽しかったかして笑っている。何があったのじゃ」
「別に変わったことではありません。兼雅の北方内侍督が琴を演奏されたのが、実に趣が深うございました」
「その琴はどんな由緒があるのか」
「内侍督が昔から愛用していたものと、承っております。その琴は生まれた児に与えたと言うことでございます」
作品名:私の読む「宇津保物語」 蔵開きー1- 作家名:陽高慈雨