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私の読む「宇津保物語」 蔵開きー1-

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 宮中でも珍しく稀な行事が沢山ありましたのに、それに出席しないで聴いているだけでは、全く生きている甲斐もなく、嘆かわしく存じます。

 さて、これは、思いもかけず満月かという気持ちが致します。

 私からの贈り物は、悪くはないなとご覧になったのでしょうか。それとも如何ですか」

 と、白い薄二重に、大変な達筆で書いて
ある。

 弾正宮(仁寿殿三宮)がこの文を取り上げて、

「この手と母上の手を世間は褒めています。
しかし、この文の方がずっと筆力があってよろしい。こんな折りでなくては、よくよく拝見することは出来ませんね。

 この文が他人が代筆したというのなら、辛いことです」

 女御の君、

「そういう習慣、藤壺が男の人へ文を書く、なんてあってはならないことである、と思っているからでしょう」

 三宮

「考えてみますと、私が春宮でなかったことが特に辛いと思います。私を不幸な者に生んでいただいて、物思いをおさせになる」

 仁寿殿女御はわが子が変なことを言うとお笑いになって

「変なこじつけ方ですね、深く考えなさるな。独身でいるから変なことを考えるのです。あちらこちらから婿にと言う話があります、どちらかにお決めになっては」

「私は、、こうして独りで暮らそうと思います。心が慰まれるような女性が現れるとは思っていません。出来たら法師にでもなろうかと」

 と、言って文を持って立ち去った。


 母女御は、

「藤壺の文は、昨日は女一の宮への文を仲忠へかと仲忠が取っていくし、今日は藤壺の私への文を、貴方が持って行くし、困ったことだ」

 と、女御自身がじれて言う声が快く響いて、かわいい感じである。それを、右大将の兼雅が局が近いので聴いてしまい。北の方に

「女一の宮が母女御に一番似ているのだろうか」

「女御のことは知りませんが、いい方だと思われます」

「女一の宮もそうなのだろう。仲忠が、大層奥ゆかしい方だと思い申し上げている。見所のない女をそのような風に見る仲忠ではないからね」

「御息所、女御もそういうお方のようです。帝が大変なご寵愛で、この頃も『早く参内しなさい』とばかりさいさいお文があるようです」

 兼雅
「人々はそなたをどう見ているのだろう。いい女を多く妻妾に持っていた者が、ともかくも一人だけの女に決めてしまったのだからね。このような女性を妻に持った者は私だと、よく名乗り出たことと、人は言うだろう。仲忠の面目のために、今でもやはりうつむいて、いつもの通り立派な着物を着て人に会いなさい。中納言の面目を潰さないように」

 北方内侍督
「本当に我が子ながらこちらが恥ずかしいと思うほど立派な子供です」

「同じ時分に官位に付いた殿上人がそのままの地位である今の状態の中、私も地位が止まったままであるので、私を超えるわけにはいかないだろう。当然なれる筈の大将を兼任できないで中納言だけであるのは気の毒だ。早く来て、十宮を使いにして頂いた土器を飲もう」
 と、語って土器を枕許に置いて、お二人お休みになる。

 兼雅はかって山奥の空祠(うつぼ)で仲忠と母親の北方を見つけたとき以来身分は右大将である。
 子供の仲忠を中将にし左衛門督、中納言を兼任させていながら、自分が昇進できないことを語る。 

 仁寿殿女御は乳母を呼んで、
「日が暮れてきました。中納言仲忠を起こして、食事を差し上げなさい」

 と言われたので乳母は早速仲忠に、

「食事の用意が出来ました」

 中納言仲忠、
「どうして女の方々は食事を勧めなさるのだ。ちょうど良い時があるのだが」

 と言って床を離れない。乳母が女御に報告すると、女御は、

「酔った者が何を言うのだ。人が怠けているときには喧しく責めるだろうに」

 と、その日八日目が暮れた。七日目に夜を徹して宴会で大騒ぎをして、八日目の早朝に行正が舞をして、人々は泥酔して帰宅し、仲忠が床に付いたのは昼頃である。

 夜が明けた、早朝仲忠は、
「今は昨日か今日か」

 というので、周りの者がどっと笑う。

「泥酔してしまったな」

 慌てて、参上した。

 その日は出産九日目。仲忠は、

「前々からお産に関係した者達への祝いが延び延びになっていたので、今日は儀式張らずに、ただ酒の肴だけ用意して、親戚の誰それや、その他の者達への禄なども用意をしておくように。正頼様にも気持ちだけの物を準備して」

 と、家の郎党達に指示を出すと、

「日頃無口な仲忠様が、よくおしゃべりになる」

 と、いいながら立派ではないが内祝いの準備をみんながする。

 夜に入ると、内侍督も髪を梳り、掻練の衣に小袿の簡単な礼装で、仲忠の所へ祝いに向かう。仁寿殿女御もそこにおられる。一の宮も起きていた。

 東面の廂に茣蓙を敷いて茵を敷いた。母屋の御簾に添えて几帳を立て回した。

 中納言仲忠は、正頼夫妻に、

「出席なさいませんか」

 と、申し上げると、正頼大臣がお出でになった。 例によって正頼の邸宅におられる宮達も皆参加された。

 正頼のご子息、中納言忠純を始めとして全員参加した。正頼は、仲忠に

「お父上兼雅様をお招きになりませんか。今ではそういう間柄ですから」

 と、正頼の子供を使いとしてお知らせになると、兼雅大将も参加された。正頼は「どうぞこちらへ」と、奥に案内する。


 こうして、仲忠が用意したご馳走を全部各人の前に出す。

 一の宮の前には、白い瑠璃の衝重6、銀の杯、瑠璃の杯などが据えられる。透かし彫りで中が見える。

 仁寿殿女御、内侍督は沈木で造った折敷6づつ、男宮達には浅香(香木)の折敷6づつを並べた。

 仲忠は簀の子にいて指図をする。彼の前には蘇枋の机二。上達部には二、普通の人に一を置いた。正頼の一家に関係がない者には、なし。正頼の家族だけである。

 正頼は、
「何処が、私の座る席は、誰の傍に座ればいいのか、言いなさい」

 仲忠はすでに着座していたので、正頼の言うままに、「こちらへと言ってください」と、父の兼雅に言う。

 兼雅は、「早くこちらへおいで下さい」 と、正頼に言うと、正頼は、
「もうお出ででしたか」

 と、正頼は、

「忠純、今日はお前もここに座りなさい」

 と言って、親子が並んで座られた。


 そのような折に、内裏から后の宮から九日の産養が贈られてきた。贈り物通例の衝重銀製で十二、同じような杯、上に唐綾の覆いが六、折櫃を積んで、破子に入った料理が多かった。仲忠夫人の一の宮宛である。

 また、春宮の女御である梨壺から、一斗ばかりはいる金の甕二つに、一つには蜂蜜、もう一つには甘葛の汁を煮つめたものを入れて、黄色の色紙で覆って担って持ってくる。また、二尺ほどの銀の鯉二匹まるで生きたように造られてあるのを、紅葉をかたどった枝に付けてある。

 瑠璃色の大きな餌袋三に、銀の銭一袋、黒方を日干しのようにして一袋、沈の木で造った小鳥一袋。鳥の毛をむしって、青い薄紙一枚で覆って結んである。

 文は唐の紫色薄紙に包んで紫苑(しおん)の模造枝に付けてある。仲忠が読むと、