私の読む「宇津保物語」 蔵開きーue -
昔生ひの松にしならふものならば
また緑児の頼もしきかな
(昔生え出て成長した、松に見習うというならば、この緑児もまた頼もしい事だな)
民部卿
若緑ふた葉に見ゆる姫松の
嵐吹き立つ世をも見てしか
(若い緑もまだ二葉の幼い姫松だが、成長して嵐の吹き荒れる世に処していく様子を見たいものだ)
平中納言
末の代の遠くもあるかな千歳経る
松の二葉に見ゆる今宵は
(生まれたばかりの二葉の松に、今夜千年もの寿命がありありと見えて末は遠く目出度いものですな)
源中納言
姫松は林とほす此の宿に
いくたび千代をかぞへ来つらん
(姫松は、林のように生えて育っているこの宿に、幾度千年を数えたことだろう)
権中納言
緑児のおほかるなかに二葉より
よろづ代見ゆる宿のひめ松
(世の中には緑児は大勢いるが、その中でも二葉のうちから、万年にも及ぶ栄えが見えているのは此の宿の姫松だ)
まだまだ位の低い者の歌があるが省略する。
そうしていると、式部卿の宮が、
「琴の始めが大切だと申します。どちらにお出ででその犬宮は」
正頼は「ここにおりますよ」と、答えて「輪台」と言う舞を立ち上がって印ばかり舞ったので、前に持していた近衛司の楽人と舞人たち、雅楽寮の楽人達、いそいで「輪台」の曲を演奏し、太鼓、、鉦鼓、鞨鼓を鳴らしたてて一度に打ち、笙、笛、篳篥を合奏して鼓が引き立てて楽を進めるうちに、仁寿殿腹の三宮(弾正宮)が黒っぽい練り絹の袙一襲、薄い藍色の斜文織りの指貫、おなじような直衣、蘇枋襲の下襲を着て、盃をとって、中務の宮に差し上げる。
背丈が高く伸び伸びとして、気高い様子で、匂うような振る舞いが心憎いほどで、中務の宮に向かわれる、
弾正の宮(三宮)と同じ年齢で二十三才、前例があると仰って、宮は遅れた者の礼として、闕巡(けちず)として三盃酒を飲む、宴会に遅れた者が、それまでに会の者たちが、揃って飲んだ数だけを、一辺に飲む規則である。
この光景を見ていた右大臣は、
「これは大変に目出度いことで、誰が此の宮を婿にするのだろう」
と、思う。
左大臣忠雅は、
「肴として何を舞いましょうか、
我が家は 帳(とばり)帳(ちょう)も垂れたるを
大君来ませ 婿にせむ
御肴(みさかな)に 何良けむ 鮑(あわび)栄螺(さだを)か
石陰子(かせ)良けむ
鮑栄螺か 石陰子良けむ
(私の家は 御簾や几帳を垂らして飾ってあります
大君さまおいでなさい 婿入りなさいませ
お酒の肴は何にしましょう
鮑か栄螺か、それとも石陰子がお好みですか
鮑か栄螺か、それとも石陰子がお好みですか)」
(催馬楽 我が家 ネットから)
と、唄って、箏の琴を手にとって調子よく演奏した。
式部卿の宮も忠雅と同じように思っているので、面白いことを言われれると微笑んで見ていた。
中務の宮は土器を手にして舞われた。そして右大臣の許に来る。
闕巡を飲み干して三宮は、民部卿宮(朱雀帝弟)の下に座る。
こうして宴会が始まると右大臣正頼、
「腰の曲がった正頼だけに舞をさせて、それで終わりとするのですか」
と言うと、源中納言涼が立ち上がって舞い始める。位の上下関係なく皆楽しく遊ぶ。
こうしていると四の宮仁寿殿女御の子供が、赤みがかった綾の掻練一襲、表裏ともに濃い縹色の指貫同じ直衣、唐綾の柳襲を着用して、土器(かわらけ)盃をとって兵部卿の宮に差し上げる。
四の宮は、見たところ大柄で、若くてはち切れそうに太っておられるが、色白で、大きくて立派である。
四の宮も杯を空けると、その杯を手に舞を舞われて涼中納言の許に差し出す。涼はそれを受けてまた三宮に差し出す。
四宮は三宮に続いてお座りになる。
四の宮は宮中に住んでおられる。歳は二十二才、右大臣正頼は
「順番に舞わなくてもよろしいから、お知りの手を一舞して頂きましょう」
と、言うと、忠雅の長男忠俊大納言が立ち上がって萬歳楽を舞う。楽は大変賑やかに奏する。右大臣正頼は、
「萬歳楽は人が好んで舞うのだか、わけても、千歳を祝う萬歳楽で老年を忘れることです」
六の宮紅の濃い掻練一襲、桜色(表が白裏葡萄染)直衣、指貫、葡萄染の下襲着用して土器をとって左大臣に向かう姿は腕が短くて太って見えるのが可愛らしい。歳は二十、正頼は祖父である。
遅れてきた忠雅は例によって闕巡を頂いて息子の忠俊大納言に盃を渡す。忠俊はそれを受けて酒を飲む。
六宮も舞をする。実忠の兄の実正宰相
「六君も舞われる」
と、猿楽をする人なので亀舞という面白可笑しい舞を舞う。会場のみんながその舞に大笑いをする。酔眼も醒めて賑やかになった。
八宮が会場に現れる、浅黄色の直衣、指貫、今風の色の衣桜襲で、左大臣の忠雅に盃を向けられているのを見ると、幼くて、か弱そうで、無心な顔をしている。
歳は十七才で、左大臣に、
「闕巡をいぺんに飲まないでゆっくりおのみなさい」
と、申し上げて形ばかりの舞をする。
そうして、盃をとって、亀舞の面白いのを見せてくれた頭宰相に渡した。頂いた宰相はまた亀舞を始めると兼雅が、
「兼雅はこの舞しか踊れない」
と言って鳥の舞を少しばかり舞われると、右近の幄より孔雀や鶴が出てきて舞うと一斉に楽器を奏したので兼雅も繰り返し舞うとそれに促されて、忠雅も舞に加わる。
作品名:私の読む「宇津保物語」 蔵開きーue - 作家名:陽高慈雨