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裏:おいでよ西高都々逸部

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先輩後輩デッドライン


小西はその日、夏の肝試しの最終確認のため、演劇部の部室を訪れていた。
蒸し暑さが首元にはりつき、うっとうしい。蝉はとめどなく鳴き続けていて、夜になっても耳の奥に残っていそうだった。
軽いノックをして部室のドアを開ける。誰かが居るだろう、とは思っていた。
開けたドアの先に確かに「誰か」は居た。しかしそれは浅井でも梅原でもなかったし、もっと言えば、たった一人しか居なかった。

「はい、なんでしょう?」

男子生徒は手元で読み込んでいたらしい台本から顔をあげ、小西を見た。男子生徒もまた、無風の真夏日の教室内に居たからだろう、前髪の間に汗を覗かせている。

「えっと、浅井って居ますか?」
「浅井先輩は今は居ません。急ぎのご用ですか」
「えーっと、肝試しのことで相談しにきたんだけど。なんか言ってたとか、ある?」

浅井先輩、とわざわざ呼んだことで、小西は相手が一年生であることを知った。
つい松崎と比較してしまいそうになるが、それに比べるとずいぶん、なんというか、浅井に似ていそうだ。物事を斜めに見ていそうだ、というのは演劇部の共通事項なのだろうか。

「……はい、準備は滞りなく、と」
「そっか」
「あなたが首謀の方ですか?」

小西はその質問に面食らう。「首謀の方」なんて、普通の高校生は使わない。浅井ならば使うだろうが、しかしこの一年生ときたら、とても苦々しい表情でしゃべるのだ。浅井はとかくアルカイックスマイルを駆使したポーカーフェイスの持ち主だが、彼はそれよりも分かりやすい。というよりも、幼く、また素直に見えた。

「浅井光司に言ってやってください。息抜きよりも練習に力を入れるべきだって」
「え、あいつ練習サボってんの?」
「少なくともここには来ていません」

つん、と男子高校生の口元が尖る。目尻もすっと持ち上がり、「私は不機嫌です」の見本みたいなポーズを取った。

「連絡を取りたいなら、メールの方がいいと思います」
「あー、確かに。でも俺、あいつのメアド知らないんだよな。なんなら教えてもらえる?」
「いえ、俺も知りません」
「は?」
「というか、浅井先輩のメアドなんて希少価値もいいとこです。たいていは用事があると現れるからって、あのひととケー番交換する人なんか居ませんよ」

不機嫌さの中に、微かな憤りが混じる。どうやら彼は拗ねているらしい。小西は「やっぱ演劇部はめんどくせぇな」と思ったけれど、言葉にはしなかった。

「そのうちたぶん、現れます。用事があるんでしたら」

彼の言葉に小西はおざなりな返事をして踵を返した。
その数分後、階段の踊り場で浅井に出会うことを、小西はまだ知らない。


※浅井光司にまつわる都市伝説
2016/05/12