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裏:おいでよ西高都々逸部

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演目者は通行人の夢を見るか?


「あ」
「やぁ」

小西が移動教室のために渡り廊下を歩いていると、何冊かの本を抱えた浅井に気付いた。真向かいから歩いてくるのだから、気付くもなにもないだろうに。

「体育祭、おつかれさま」
「おー…ってお前参加してたか?全然見かけなかったぞ」
「アナウンスの手伝いをしてたからね、自軍には殆どいられなかったんだ」
「へー」

小西はおざなりに返事をしながら浅井の持つ本のタイトルをなぞる。古今東西の有名作品ばかりだ。

「これかい?」
「あぁ」
「文化祭の演目を決めないといけなくてね」

確かこの学校の演劇部はそこそこの規模があり、毎回地区優勝を果たしている。
浅井がどのポジションにいるのかはさだかではないが、どことなく引け目を感じるのは野球部のことを引きずっている証拠なのだろうか。

「ロミオとジュリエットは去年やったとかでね」

浅井は銀河鉄道の夜、マクベス、嵐が丘、星の王子さま…といった著作権切れの本たちを見せてくる。
小西には半分がさっぱりだったが、どれもきっと浅井のような作品なのだろう、と思う。いっそこいつは攻殻機動隊にでもなれば良いのだ。

「お前まだ二年だろ?台本選びになんか参加すんの?」
「うちは実力主義だから」

一年にも発言件はあるよ。浅井は静かに言い、微笑んだ。
確かに西高からほど近い場所には有名な若手俳優たちを売り出す劇団があり、そこに所属している部員も少なからずいるらしい。もちろん、仕事をもらえる輩など極少数だろうが、それでも彼らは自分の夢を信じているのだ。

「ふーん…浅井は?何やんの?」
「どれにしようかな。迷うよ」

迷える立場が羨ましいのか妬ましいのか、自分の感情が分からず、小西はやや下を向いた。

「今までずっと、誰かに決められていたからね」
「へぇ?春の大会で主役やったんじゃなかったのか?」
「それは彼が幽霊のような宇宙人という設定だったからね」

なるほど、訳のわからなさで抜擢されたのか。

「でも、今度はジョバンニじゃなくて、カムパネルラをやってみたっていいのかもしれない」
「似合わなくてもか?」
「そりゃあ」

浅井はそこまで言って、肩を竦める。

「バットをペンに持ち替えた君が言うかい?」

やはり浅井は笑っている。都々逸部のことを言っているのだろう。

「じゃあまた」
「あ、あぁ」

浅井は小西の横をするりと通り抜け、自分の教室に戻ろうとしたが、何か思うところがあったのだろう。くるりと振り向く。

「体育祭のアレ、格好よかったよ」

はっとした小西が浅井を見ても、そこにはすでに浅井の遠ざかっていく背中しかなかった。ぴんと伸びた、背中だった。