小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

私の読む 「宇津保物語」  初秋ー2

INDEX|7ページ/7ページ|

前のページ
 

 左大臣季明は蔵人より蒔絵の衣櫃廿、覆う布、運ぶこん棒を持ち出してきた。作物所の職人が作った唐櫃でどこから見ても美しく立派な出来映えの廿箱である。

 良い柄の錦はそれらの箱の覆いにしようと、毎年、作り貯めしておいた物である。今夜のために作り貯めておいたよな感じがした。

 その上蔵人所では、唐人が京へ上ってくる毎に持ってくる綾錦の中でも珍しい物や、香りの良いのをこの櫃の中に選んで入れて、左大臣は、急に用立てなければならないようなことがある時の材料として櫃に入れて蔵人所に積み上げて保管してある。天下中を見回しても、今夜の内侍督への贈り物以上の物は手に入らないであろう。

 贈り物を受け取るのは、俊蔭の娘である。夫は右大将兼雅という名だたる者である。内侍督が奏する琴の手は、父親の俊蔭から受け継いだもので、天下にこれ以上優れた心憎い技はない。

 左大臣は、この品々を贈り物にしよう。誰も異議を言う者はないであろう、と唐櫃を十個取り出して、更にもう十個の衣装櫃を出してきて内蔵寮の絹で最も良い品を選んで五個の唐櫃に五百疋入れて、残りの五個の櫃に雪を振りかけたような真っ白な畳綿で、広さが五尺ほどのを選んで五百枚入れる。

 蔵人所の唐櫃十個には、綾錦(花文綾)、ありったけの種類の香料、麝香・沈・丁字どれも唐から渡来物、唐人が来て置いていった物の中から選んで保管していた。蔵人所から持ってきた唐櫃十個に入っている。

 珍しい物、品質が良いものを入れた櫃十個が整った。



 后の宮よりも左大臣と同じように尚侍督への贈り物がある。
 
 「しづかはのなかつね」作の蒔絵の衣装箱五個に、装束、夏のは夏、秋のは秋、 冬のは冬、その装いは色々あって限りなく清らかで有る。 

 御衣は物の形を彫りこんだ板で、その形を布や紙にすって染め付ける形木、の色々な形、刷り込んだ様々な色、見事に立派である。唐衣の袿等を見ると見事な出来映えである。珍しい紋を織り込んで、世間ではまたとない良い物に仕上げてある。

 これらを箱に入れて単衣物は入帷子、袋にした布に袷を、いずれも綺麗な包みにして入れた。絽の入帷子にして、包みは豪華な「綺」という織物で、「海賦」の模様が織り出されている。総て唐からの渡来物である。

 
 女御達が多くおられるが、仁寿殿だけが贈り物をなさった。豪華な物で、他の君達では出来そうもない。

 今夜の内侍督への贈り物は、仁寿殿が富貴な正頼の娘であるから、他の女御と違ってこういうときにすぐ贈り物が出来る。

 仁寿殿の贈り物は、銀製の透箱に銀をつかって組目が組んであり、一つは、秋山を組んで作り、野には草花蝶鳥、山には木の葉色々、鳥を置いて白い構図である。山の様子を美しく組据え、もう一つは、夏の山を、山は緑の木の葉、鳥が囀り遊んでいる。山と河の雰囲気、水鳥が池に遊ぶ様子、木に虫がたかっているなど、美しく組んであり、山に住む人の様子などがよく組んである。

 もう一つの方は、春の桜が咲き誇る島などの描き方が、海は趣があり、珍しく美しく組んである。


 透箱二具、銀の高坏に金属の塗料で色々な模様を描く、脚にも装飾を施して、この世にまたとない物である。 

 衣装も同じように大変に美しい夏・冬の衣装を透箱に入れてその敷物、上の覆い、組紐で結んだ様子は大変に上品である。

 いま二つには、髪の調度品、額から初めて、簪、元結い、櫛、などどれも目出度く、台に据えて贈られた。(初秋終わり)