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私の読む 「宇津保物語」 祭りの使い

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 さて、歌を詠むということは若者のすることで、私らしく有りませんが、若い者が文を書くときにそれで色を付ける、と噂に聞きますので、私も一首。

 君こふとみなかみ白くなる瀧は
       老の涙のつもるなるべし
(貴女を恋い慕うので老いの涙が積もって瀧となり、髪も瀧のように白くなりました)
 
 という少将の代筆を宮内女房に渡し、絹・綾を礼として渡し、帰らした。


 勧学院の西に藤原冬嗣が造った曹司に、人間蓄財と知恵があるが、蓄財捨てて学問に精出して非常に窮迫していて、院のみんなから冷淡に扱われるので雑色や厨女のような下賤の者までがこの学生の言うことを聞かない。

 院の座に就くと学生達は大騒ぎをして短冊に文字を書いて捻り、それを当てさせる。当てれば一笥の飯を食わせる。院司、かいどりはその短冊を

「藤英の一日分の糧にありつく捻り文」

 と嘲笑し、博士達も数に入れなかった。

 両親も従者も一族も、ともに死んでしまって、一度に孤独になった藤英は、出来もしない大勢の学生に先を越され、試験を受ける機会もなしに、歳三十五に、容姿端麗、頭脳明晰心の立派な学生である。

 こういう境遇のうちにも、藤英は考えることがあって、仲間の学生の一人が、藤英がこのようにまで貧窮するのをみて

「非点の打ち所もない男だ。左大将殿もあれほどの婿はおとりになりますまい。容姿に知恵は素晴らしいが」

 色々なことを言って藤英を馬鹿にして笑う。藤英血のような紅い涙を流して、噂されるほどの男になれないのを恥ずかしい悲しいと思って、夏は蛍を薄い絹の袋に沢山入れて、書面の前に置いて、寝もしないで読書する。明るくなれば、日が沈むまで窓に向かって読書し勉学する。

 冬は雪を丸めて灯火として、見える限りの努力をして

「祭られていらっしゃる幾人かの先聖先師よ、私のこの熱心な学問をする力に免じて、私の恥を救い。私の希望を遂げさせてください」

 心中で祈りつつも自分が捨てられないかと嘆いていると、勧学院出身である人が、丹後の守となって出発しようと、出立の「旅籠振る舞い」の宴を開いた日に、勧学院の曹司へ使いの者を送り

「今日、旅籠振る舞いの席に臨席してください。今日は目出度く國守として出立する吉日であります」

 と。告げさす。

 藤英が受けて

「本当に有り難い、私のような者をお客の数に加えてくださって、勧学院に入学して今年で二十余年、今以て私は無視されています。偶然院に入った昔、貧しかったためでしょう」

 と返事をする。

 丹後の守は藤英の返事を聞いて、夏の衣の着古しの袍と朽葉色の下襲の裏のあるのを取りにやって、それに和歌を付けて藤英に贈る。

 夏衣わがぬぎ著する今日よりは
       見るなるはぢも薄くなりなむ
(夏衣をぬいでお着せする今日からは、もはや貴方の受ける恥も少なくなるでしょう)

 受け取った藤英は紅の涙を流して、

 恥をのみ八重著る衣に脱ぎかへて
       うすき衣に涼みぬる哉
{恥ばかり幾重も重ね着て、苦しさに絶えてきた私も、今日初めて貴方のお情けで薄い衣に着替えて涼むことが出来ましたよ)

 返歌した。返歌を読んだ丹後の守は、料理一盛りを藤英の曹司に贈った。みんなはこのことで漢詩を作詩した。


絵解
 画面は、勧学院。先ず藤英が住む西の曹司。藤英が机に向かって座り、文や書物を周りに山のように積んで、蛍を袋に入れて机の上に置いて麻の太い糸で織った夏の衣の帷子(かたびら)一枚を着ている。

 炊事女が黒い飯笥にご飯を入れて大根もやし(さわやけ)の汁と一緒に持ってくる。

 この画は、東曹司、将来侍従にもなるという学生が並んで、酒肴を食して、院の雑司達が集まって忙しく働き廻る。政所の別当(職員)達が並んでいる。

 米俵が数多く積んである。

 炊事場で男達が料理をしている。長女(おさめ)と呼ばれる下級の老女で局の雑用に当ったる者、台所仕事をする女、厨女(くりやめ)が働いている。
藤英を馬鹿にした話がされている。

 この画は、丹後の守の「はたごぶるい」のところ。
進士秀才の位を持つ者と藤英が宴の座に就いている。八十人ばかり。食膳(台盤)を前にして食事をしている。丹後の守の宴である。紙を配る。厨女を縛り打擲する。