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私の読む 「宇津保物語」 祭りの使い

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宇津保物語 祭の使


 やがて賀茂祭りが近づいて、賀茂祭りへの使者が、正頼の許から出立した。近衛府の使いとし正頼三男の祐純中将、内蔵寮の使いには、内蔵の頭を兼ねる行正が、馬寮(むまづかさ)からは、式部卿の宮の子、馬寮の頭が使いに立つ。


内蔵寮(くらりょう・くらづかさ)

 皇室経済をつかさどる官庁。令制では中務省に属し,明治官制では宮内省に置かれた。〈うちのくらのつかさ〉とも読んだが,のちには〈内〉の字を読まないのが慣例となり,また唐名の倉部の称も用いられた。古語拾遺には,神武天皇のとき宮内に蔵を建て,神物・官物(みやけのもの)をあわせ納めて斎蔵(いみくら)と称したが,履中天皇のとき別に内蔵(うちつくら)を建てて官物を分納し,さらに雄略朝に諸国の貢献物を納める大蔵を分立したという伝承を載せ,三蔵の分立として名高い。
(ネット コトバンク)

 正頼は、使いに立つ三人に労りの言葉を与える。三人が出立するときに、正頼は、息子の中将に挿頭(かざし)を与えようと、

 二葉なるまつらかつらと見し物を
      かざし折るまで成りにけるかな   (まだ生まれたばかりの二葉の桂の木だと思っていたお前が、まあなんと挿頭にするほど立派に成長したことよ)  

 使いに立つ祐純は、

 もと見ればたかきかつらも今日よりや
        枝劣りすと人のいふらん
(幹はしっかりと高い立派な桂の木ですのに、今日私を見た人々は、元の木に比べて枝が劣っていると言うでしょう)

 と、歌を置いて出発しようとすると、桂から右大将兼雅が祐純の勅使の祝いとして、一頭は立派な鞍を置いた飾り馬、一頭は副え馬、二頭を引いて来た。
 舎人三十人を言いようのない程綺麗に着飾って、引き連れ、指揮者になる人長が榊や弊を手にして指揮して神楽歌を唱い舞して沿道を進む。

 金属の壷に桂川の水を入れて、仲忠に歌を詠わせた

 かざしとる袖の濡るゝは白波の
        桂河より折れるなりけり
(貴方の挿頭を取るために私の袖が濡れるのは、白波のたつ桂河から折ったからです)

 と、詠う。使者に立つ祐純は、

 みなかみにかざしつるかな桂河
        今日ひとなみの心地のみして
(頂いた桂河の挿頭をどれもみな髪にかざしましたよ。今日初めて人並みになった気持ちが致しまして)

 今日の日暮れに一杯やりましょう。

 と、言って出発した。

 母君の嵯峨院の一宮(大宮)、息子の晴れ姿を見ようと、車十台を列ねて行列の通り沿道で御覧になった。

絵解
 画面は、正頼大将の南の大殿。使いの三人が到着している。正頼の座る場所に並んで、親王四人、上達部五人、四位五位の者合わせて六十人ばかりが見送る。馬を引いて使者の従者が立ち並ぶ。

 一条通りに見物の車が数知れず並ぶ。大宮の物見車十両も並んでいる。
 
 榻を並べて牛を車から放して、車の梶棒を置いて車を水平にしておく、車を立てている四位五位達の車がまき散らしたように見える。

 
 こうして見物から帰ると、東宮からの使者が、東宮の文を持ってくる。

 今年より摘むべきものか千早振(ちはやぶる)
賀茂の祭りにかざす葵は
(賀茂祭りにかざす葵は今年から摘んで宜しいでしょうか(あて宮を))

 と言う内容である。

 いつもの実忠宰相は三月頃に
「私には仰らないとしても、女房方がお話しするところでもせめて聞かせてください」
などと懸命に言うので、女房達は実忠をあて宮に近いところに座らせて、あて宮が琴を弾いたり、話をしたりするようにし向けたことを聞いた後、いよいよあて宮を思い詰めて床に就いてしまい、分別がつかないようであったが、このように歌を贈った。
 
 奥山のふるすをいでて時鳥
      たびねに年ぞあまた経にける
(奥山の古い住み家を出た時鳥は、旅の憂き寝を長年続けています)

 あて宮よ、こうして書くことさえ、今は身も衰えて出来なくなるのが悲しゅうございます。

 あて宮は、

 夏ばかり初立(ういだち)すなる郭公
巣にはかへらぬ年もあらじな
(夏が来るとやっと初の旅をする郭公は、もとの巣に帰らない年はありますまいよ)

 兵部卿の宮(あて宮の叔父)から

 ぬるみゆく板井の清水手にくみて
      なほこそたのめ底はしらねど
(夏になると板で囲った板井の清水もぬくもりが出てきますので、譬え底が冷たいとしても、その内にはこの温かいお心で迎えてくださるだろうと頼みに致しております)

 あて宮

 あだ人のいふにつけてぞ夏衣
      うすき心も思ひしらるゝ
(浮気な人が何か仰ると、夏衣のような薄心が見え透きます)

 平中納言

いつとてもわびしき物を時鳥
        身をうの花のいとゞ咲くかな
(貴女のご返事がないので何時も侘びしい想いをしていますのに、卯の花が咲くと身を憂しと時鳥が私の悩みをかき立てるのです)

 あて宮

かひもなきすをたのめばや時烏
        身をうの花の咲くも見ゆらん
(言われても頼り甲斐のない私を頼みになさっておいでだから、時鳥の鳴くのを身を憂しとお聴ききになるのでしょう)

仲忠、うつせみの抜け殻に書いて贈った。

 言の葉の露をのみまつうつせみも
       むなしきものと見るがわびしき
(貴女のお言葉を露の恵みとばかりお待ちする私も、空頼みに過ぎないと思うのは誠に侘びしい限りです)

 さて、どうなりますやら。

 と、いって来たのであて宮は、

 言の葉のはかなき露と思へども
        わがたまづさと人もこそ見れ
(貴方に申し上げる言葉は、貴方の仰るような恵みではないと思いますが、私の文だと他の人が見てかれこれ言うでしょう、そう思うので申し上げにくいのです)

 と思いますので、お聞きするわけには参りませんと、返事をした。

 紀伊國の吹上の君涼より、

「どうなさっていらっしゃるかと貴女のことが気になっていました。他人様まで貴女のお噂をして、耳に入りますので、落ち着いていられません、ので」
 と、消息文を書いて童の中でしっかりした者を選んで使いにして、更に歌を、

 おぼつかないかで心をつくばねの
       ますかげなしとなげくなるらん
(心許ないことです。どうして皆さんは夢中になって貴女ほどの方は無いと騒ぐのでしょう)

 あきれるほどです。

 と贈った。正頼が涼の歌を詠んで、
「今世間で評判の人だろう。上達部になるほどの人らしいから、平気でこう人々をくさすのだろうよ」
 と言う。あて宮は返事しなかった。

 三の親王

 ながめする五月雨よりもなげきつゝ
       月日をふるぞ袖は濡れける
(長雨の続く五月雨よりも私は嘆きに沈みつつ、毎日涙に濡れています)

 と言うが返事は無し。

 仲頼

 思ふことなすこそ神もかたからめ
      しばしなぐさむ心つけなむ
(自分の思い通りにしてくださいと神に願うことは難しいでしょうが、せめて慰むほどのことは叶えていただきたいものだ)

 行正