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私の読む「宇津保物語」第 四巻  吹上 下

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(鈴虫が私の思うようになるならば、お前はあて宮のお側で秋の夜通し、私の代わりに声を振り立てて鳴いておくれ)

 兵部卿の宮(正頼の北方大宮の弟)が菊の盛りに姪のあて宮に、

 たのもしくおもほゆるかないふことを
きくてふ花のにほふなが月
(言うことを聞くという花の匂う九月は、私にとって大変頼もしい月です。きっと貴女は私の申し上げることを聞き入れて下さると思うからです)

 右大将兼雅、晦日(つごもり)の日に、

 なが月は忌むにつけてもなぐさめつ
     秋はつるにぞかなしかりける
(婚姻を忌むという九月も最後の日になったので、やがて申し込みを聞いて下さる日が来ると自分を慰めていますが、秋はこれで終わりだと思うと悲しゅう御座います)

 平中納言、十月朔日(ついたち)の日に、

 うすかりし夏の衣やぬれしとて
     かへつる袖ぞかはらざりける
(薄かった夏の衣が貴女を思う涙で濡れたので着替えましたが、またその衣の袖も同じように濡れてしまいました)

 三の親王、御前の紅葉が色濃く染まっているので、

 色ふかく染むるまに/\神無月
  袖や紅葉の錦なるらん
(悲しみの涙がだんだん色深くなるうちにもう十月ですから、袖は紅葉の錦になるでしょう)

 平中将仲忠、宇治の網代から、

 流れくる日を数ふればあじろ木に
     よるさへ数も知られざりけり
(流れてくる氷魚を数えますと、網代の木による魚の数は無限のようです)

 初雪の降る日に涼中将、

 雲井よりたもとに降れる初雪の
     うちとけゆかむ待つが久しき
(雲の上から袖に降った初雪が融けるのを、私が待つのも久しいことです)

 正頼が涼の歌を読んで、
「神泉苑の紅葉の宴で、帝が貴女を涼へと思っておいでのようです。すべてに勝れた人であるから、人らしい人だと帝もご信頼なさっているのです」
 と、言う。

 侍従仲純、時雨がひどく降る日に、

 神無月雲がくれつゝしぐるれば
    まづわが身のみおもほゆるかな
(十月という月は雲隠れしながら雨が降るので、思いに悩む私は、自分の身に引き比べて堪えられないのです)

 源少将仲頼は祭りの使者として出立の時、

 袖ひぢて久しくなれば冬中に
   ふりいでてぞゆくとふがあふやと (袖が涙に濡れていつまでも乾かないので、冬の最中に思い切って出かけます。もしやお目にかかれるかと)  

 兵衛佐行正、詣でると色々と話をする。暁に帰るとき。前の池から水鳥が飛び立つのを見て、

 我ひとりかへれる池にをし鳥の
    汝もつれなく啼きてたつかな
(私が一人淋しく帰ってくると、池の鴛鴦よ、お前までが私に当てつけがましく揃って鳴いていくのだね)

 藤原季英は神泉の宴で進上に昇進して、方略の問題を出されていた。六十日あまりで回答を出さねばならないと夜昼と考えていた。

 今までは貧乏で雪を夜の光として勉強をしていたが、今では正頼のおかげで食べ物は山のようにあるし、灯火の油は海のように湛えているという豊かな中でも、あて宮を想う気持ちに嘆いている。雪の降る日に、

 心こそあかく成りしか雪ふれど
    恋にはまどふ物にぞありける
(白い雪は降るけれど、心の中は燃えさかっていよいよ赤くなった。私のような分別のある者も恋には惑うものだなあ)
(吹上 下終わり)