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私の読む「宇津保物語」第 四巻  嵯峨院

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 と、返事があり、北方は読んで涙を流して年が経て、真砂君は十三歳、袖姫は十四歳になった。

 真砂君は父親に撫でられたことだけが恋しくて、遊びもしない、食事も取らないで思い詰め、

「父君が私を可愛がっていらっしゃった時は、一緒に遊んでいて、ほんの一寸の間でもその場をはずすと心配なさったものでした。今はこの屋の前をお通りになっても尋ねて下さらないのは、私を父君の子供とは思って下さらないからです。
 親のない子供はしっかりしていなくて頼りにならない、学問もせず満足な官位を得ることも難しいのです。私こそそういう男になってしまいます」

 真砂君は拗ねて卑屈になり、病の床について衰弱していった。さらに真砂君は乳母に、

「本当にわたくしこそ父君を恋しいと思っているのに、このような事では生きていくことが出来ないであろう。内裏に上がってお仕えしたいと思っているのに」
 と、泣きながら言う。乳母は、

「不吉なことを言われて。なんと言うことを言われますか。
 母君も、今はこのように貧しくおなりに成られたが、君達がいらっしゃるので、将来を楽しみにされ、期待もされていらっしゃるので、私達はこうしてお仕えしているのです。
 真砂君がいらっしゃらなければ、ババを初めとして何を頼りにしてお仕えいたしましょうぞ。
 ということをお考えになって下さい。
 辛く当たる親にはあるまじき父君を頼りになさって、貴方様の命までも無駄にするようなことは。お考え下さるな」
 涙を流して諫める。真砂君は、

「そうは思うが生きられないであろう。私に代わって母を大事にして仕えてくださいよ」

 と言って父親を恋しつつ真砂君は亡くなってしまった。母君はもだえ悲しむが、甲斐のないことである。

 実忠宰相はこのような事態になっていることも知らずに。自分のあて宮への想いが思い通りに進まないのに苛々して、倒れ臥して病になり、そうかと思うとある時は派手にキラキラと遊び、目立つように振る舞う。京から離れたところで暮らし、かっては恋い慕って暮らした妻子の現状も知らずに、あて宮を恋慕っている。

 真砂君が亡くなったことも知らずにいるうちに、七日の法事の決めごとの、母君は佛を描き、写経をし、喪服を誂えて、比叡の山で法事を執り行った。

「夫の宰相が、思いを改めるように」

 と御社にお詣りになると、真砂君供養のための願文に、父親の変心からたった一人の男の子を死なせてしまった。ということを深い言葉で書きつづった。

 願文を聞いた比叡の山の人は悲しんで実忠を罵る。

 父親源実忠はこのことを知って驚き泣き惑われて転がり喚くが、甲斐のないことである。

 供養のために経を唱え、僧にも読経をさせた。そうして、真砂君の亡くなったことを現実のことと受け止めた。