トランキライザ
「なにがしたいんだ」
誰かが言ったのが聞こえた。悠基自身にも既によく分からなかった。ただ何か失敗をしたことはわかっていて、それでも絶望しかないわけでもないということは理解できた。
ただ悠基はいつも通りを続けたいだけだった。それが結局祖母を破壊し、悠基を半壊させ、場合によってはこれから父も殺されるかもしれなかった。どう見る、と尋ねる。返事は無い。
棺が閉められる。運び出されてゆく棺を悠基はただ見送る。祖母が旅立ってゆく。行き先は恐らく安寧だろう。一方で悠基はこれから闘い始める。退路は無い。
「本当はこれも入れたかったんだけど」
言いながら眼鏡を父に見せた。
「眼鏡無しでも見えるのか」
「うん。よく見える」
欠伸が出たので目を擦った。少し長めに擦り続け目を開けば、棺もそれ以外の景色も先程までと全く変わらずに、しかし全く意味を変えてそこに広がっていた。ここに悠基は完全に目を覚ました。