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私の読む「宇津保物語」第三巻 藤原の君ー2

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(彦星と織女と年に只一度巡り会うその朝の東雲は、はたで見る眼も無情に思われます)

 十姫今宮、

 七夕のあふ夜ときくを天川
うかべる星の名にこそありけれ
(七月七日は牽牛織女の二星が天の川で会うのだと聞き伝えてはいますが、天の川に浮かんでいる星の名にすぎないのですね)

 九姫あて宮、

 七夕のあふよの露を秋ごとに
わがかす糸の玉とみるかな
(七夕の日に会う夜の秋の露を、私の織った玉と見ようか)

 姫君達は詠い琴の演奏を楽しんでいる様子を、宰相実忠は離れた河原で眺めていて、あて宮に、

 雨とふる涙はいつとわかねども
    けふの水泡(みなわ)となりくらす哉
(雨のように降る私の涙はいつも変わりありませんが、今日はその涙が水疱となって消えてしまうでしょうよ)

 あて宮懸想人の8人目 あて宮の姉、帝の仁寿殿女御の三男の弾正の宮(甥が叔母に懸想する)

 七夕のつま待つ宵の露にだに
       濡れみてしがな恋は醒むやと
(織女が夫の彦星を宵の露に濡れて待つという、その露にせめて濡れてみたいものです、私の苦しい恋が醒めるかどうか)


 唐の国へ拉致されて帰国した花園改め行正は、

 我が恋は七夕つめにおとらねど
       あふ夜をいつと知らずもあるかな
(私のあて宮を恋い慕う心は織女に劣らないのに、いつあえるともしれない、はかない恋なのです)

 みんながそれぞれ詠って送るが、あて宮からの返り文はなかった。

絵解

 絵は加茂川の河原で姫君達は髪を洗ったところである。

 あて宮は琴の琴、今宮は箏の琴、御息所(一姫)は琵琶、母親の大宮は和琴、で合奏している。東宮の使いに褒美を取らせている。
 

 次の絵は、絵詞なくて、あて宮が一人琴を弾いている、其れを大勢が聞き惚れて河原に集まっている。姫達の前に流しの女が廿人ばかりが琴を弾いて歌を詠い、褒美を戴いている。

 そうして正頼一家は帰っていった。


 七月の終わりの日。東宮よりあて宮の許に、

 初秋の色をこそみめ女郎花
露のやどりときくは苦しき
(初秋の女郎花の新鮮な色を見たいと思っていました。だのにその女郎花には露が宿ると聞いて、私の心は苦しく痛んでいます)

 貴女には数多くの風聞があって、私がどんなに思っていても甲斐がありません。

 と文があり、あて宮は、

 秋の色も露をもいさや女郎花
木がくれにのみおくとこそみれ
(さあこの女郎花は秋の色に出ることもなく、露を宿すこともございません。木の影にばかり置かれていますから)

 あの実忠宰相、

 旅ねする身には涙もなからなん
つねにうきたる心ちのみする
(落ち着く宿もなく、常に旅寝する私には、涙という物がなければよいと思います。いつも涙で浮いてしまって、ただ不安な気持ちでいますから)

 あて宮は、

 たびごとに空にたちぬる塵なれや
       露ばかりにも浮かぶなるかな
(貴方は何かするたびに空に立つ軽い塵なのですね。一雫の涙の露にさえ浮かぶと仰るんですもの)

 右大将兼雅から

 侘人のなみだを拾う物ならば
袂や玉のはこにならまし
(貴女を慕って涙に明け暮れている侘人が涙の玉を拾うことが出来たならば、袂は玉の箱となるでしょう)

 あて宮、

 なみだをも箱なる玉とみましかば
       よそなる人ぞひろひ添へまし
(涙を箱の玉と見るならば、あなたでなくても拾って入れるでしょう)

 平中納言 東宮の従兄弟、女好きで有名は、

 しづみなん身をば思はず名取川
ふみみてしがな淵瀬しるべく
(身の破滅をも省みない私は浮き名を取ることでしょうが、敢えてその名取川淵瀬を知るために渡りたいのです)

 あて宮、

 瀧つ瀬にうかべる泡のいかでかは
淵瀬にしづむ身とはしるべき
(瀧つ瀬に浮かんでいる泡が、どうしてやがては淵瀬に沈む身だと悟る事が出来ましょう。まして踏み見ようなどとはもってのほかです)

 兵部卿の宮(正頼の北方大宮の弟)

 かくばかりうきには恋の慰まで
つらきさまざまなげきます哉
(こんなにまで恋する悲しさつらさは慰められず、いよいよさまざまな憂さやなげきがますことです)


 三番目の王子右近中将蔵人頭祐純があて宮の住む中の御殿で琴を弾き、話をしていると前の灯籠に夏虫が入るのを見て、

 一人寝る身も夏むしをみざりせば
       かくしも恋に燃えずぞあらまし
(独り寝の私でも、灯籠に入る夏虫を見なかったら、こんなにも恋のために燃えることもなかったでしょう)

 この身が侘びしくてたまりません。

 あて宮に言うのであるが、承知なさらない。侍従の仲純

 人を思ふ我身の玉はなからなん
むなしきからはなげきしもせじ
(あて宮を思い焦がれる魂はなければいいと思います。魂のない身殻はなげくということをしないでしょうから)

 あて宮は知らん顔。兵衛佐行正、

 かやり火のけぶりも雲となる物を
下草をしも結ばざらめや
(下燃えの蚊遣火でさえ煙が雲となるものをどうして私が下草を結ばないでおきましょう。必ず結んでお目に掛けましょう)

 お返事なし。
|藤原の君 おわり|