Desire
序幕:彼との約束
その日、いつものように刻もうとしていた。生の証に泣いた手を、幾度目の自己満足を。
変わらない毎日にも、変われない自分にもうんざりだった。いっそこのまま死んでしまいたいと何度思っただろう。……弱虫な自分には到底成し得ないこと。
夢の中で何度わたしを殺しても、現実のわたしはこうして生きている。
結局なにも変わらないまま。心は置き去りのまま。時が過ぎ、身体だけが大人になっていく。
息を吸うように、ごく自然に、右手に握ったナイフを引いた。いつも通りの味気無い夜。ひとりぼっちの月がわたしを照らしている。白いレースのカーテンが、風に揺れている。
きぃ。窓の金具が音を立てた。
月の光に照らされたバルコニー。空から部屋へと差し込む光を遮って、彼はそこにいた。音もなく伸びた腕が、右手に握った獲物を奪い去る。
そして彼は言った。銀色のナイフをわたしに向けて、悲しそうに言った。
「俺を、殺してくれ」と。
そう。彼との出会いは、いつも通りの味気無い夜。