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キモチのキャッチボール

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キモチのキャッチボール
            
   1
 楽しかった冬休みが終わり、きょうは三学期の始業式である。きのうまで静かだった通学路は、冬休みの作品などを両手にかかえた小学生でいっぱいだった。そして、冬休みの思い出のことだろうか、楽しそうにおしゃべりをしながら子どもたちは学校へと向かっていた。
 タカシとトオルも荷物で両手がふさがっていたが、久しぶりの登校日でおしゃべりに花が咲いていた。タカシとトオルは家が近くで一年生の時から仲がよかったが、一度も同じクラスになったことがなかった。
「タカシくんのクラスは、あした班がえするの?」
「そうだと思うよ。トオルくんの学級もそうでしょ?」
「それが、ち・が・う・ん・だ・なぁー。」
 トオルはじまん気に答えた。
「え! ちがうの! いつ?」
「き・ょ・う!」
「えぇ! きょうって、きょうを?」
 タカシは、おどろきとうらやましさで声がうわずってしまった。子どもたちにとって、班がえは遊びの次に重要なことである。その班がえを一日早くするということは一大事なのである。
「いつも始業式に班がえするの?」
「いつもは次の日だけど、三学期は一番短いから始業式にすると先生が言ってたよ。」
「いいなぁ。いいな。ぼくもトオルくんと同じクラスだったらよかったなぁ」
タカシは、とにかくうらやましくてしかたがなかった。
 班がえで盛り上がっているタカシたちのうしろの方を、二人の女の子が歩いていた。大きい方が姉のキミコ。小さい方が三年生のミキコである。
「ミキコ、早く終わったら、私の教室に来て待ってて」
「早く終わったら、お姉ちゃん待たないで帰る!」
 ミキコはぶっきらぼうに言った。
「どうして待つのいやなの? 階段上がるのいやなの? それなら玄関でもいいよ」
「めんどうだから、いいよ、お姉ちゃん。私一人で帰る」
「いつもこうなんだから。勝手にしなさい」
二歳上のキミコは妹思いであるが、口うるさいので、ミキコはこのごろ、姉のことがうっとうしく感じるようになってきたのである。

 三学期が始まって二週間ほどたった朝。いつものようにタカシとトオルは、おしゃべりをしながら通学路を歩いていると、その前をミキコ、キミコ姉妹が歩いていた。
「ねぇ、トオルくん。前を歩いている小さい方の女の子さぁ、ちょっとかわいそうだよね」
「え、だれ? サカモトミキコのこと? 同じクラスの子だよ」
「え、同じクラスなの!」
「タカシくん、ミキコ、知ってるの?」
「いや、知らないけど、学校の帰りに何度か見ただけだよ」
「じゃあ、……気があるんだ」
「そんなんじゃないよ!」
 タカシは血相を変えて完全におこってしまった。
「ごめん。ごめん。冗談だよ」
 トオルは必死にあやまり、何とかタカシのきげんをなおした。
「タカシくん、ミキコがかわいそうってどういうこと?」
「あ、あの子さ。足が少し悪いんじゃない?」
「ミキコはね、二学期に足の手術したんだよ。」
「やっぱりそうだったんだ」
「あ、だからかわいそうだって言ったんだ」
「かわいそうだと思わないの!」
 タカシは、トオルが冷たい人間だと思い、むきになってしまった。
「ミキコは、かわいそうなんじゃないよ。かわいそうなのは、ぼくたち男子だよ」
「ええ、どういうこと?」
 タカシは驚いて聞き返した。
「ミキコはね、いつもぼくたちに命令して、…学校にお母さんがいるみたいでさ、なんか、いやなんだよな」
「あ、そうか! だから男子がかわいそうなんだ」
「そういうこと」
 タカシは、トオルの説明でやっと納得した。ミキコがかわいそうだという最初の気持ちが少し変わってしまった。

その後タカシとトオルの会話には、ミキコのことがよく出てくるようになった。
その日の朝は、タカシが気になっていたことをトオルに聞いてみた。
「ミキコちゃんが命令するって言ってたけど、どういうことなの?」
「どういうことって、……たとえば給食当番のときね、『先に手洗って』とか。『ふざけないで早くかたづけて』とかさ。……おせっかいでさ、おこるとコワイんだよ」
「わあ! トオルくんたち、ほんとうにかわいそうだね」
 タカシはミキコの命令の意味がわかり、今度はトオルと同じクラスでなくてよかったと思った。ミキコはコワイ女の子、きげんの悪いうちのお母さんみたいだと思うようになった。

 タカシたちの学年で大事件が起きた。クラスが変わることになったのである。タカシたちは突然の大事件にうれしいようなさびしいような複雑な気持ちだった。
 四月、クラス発表の日をむかえた。
 タカシはトオルと一緒にクラス発表を見に行った。発表の時間まで三十分ぐらいあったが、十人ぐらいの子がすでに来て遊んでいた。
「発表は十時だよね?」
 タカシは思わず時間を確かめた。
「うん。お便りに書いていたのを何回も見たから確かだよ。」
 トオルは自信たっぷりに言った。
「今度こそ、トオルくんと同じクラスになればいいね。」
「うん。それとミキコと違うクラスにならないかなあ」
「あ、そうか。トオルくんはミキコちゃんのこともあったんだ」
 タカシは思い出したようにトオルの言ったことに相づちを打った。
 いよいよクラス発表の時間になり、クラス発表の大きな紙が張り出された。掲示板のまわりには子どもたちや親たちでいっぱいだった。タカシたちは人がきをかき分けて、やっと掲示板の近くまで進むことができた。二人は一組から順番に見ていった。
「タカシくん、二組だ!」
 トオルがタカシの名前をいち早く見つけ、タカシに教えた。
「ほんとだ!」
 タカシも自分の名前を見つけてほっとした。
「あ、ぼくは四組だ!」
「どれ、あっ、四組だ。またトオルくんと一緒になれなかった!」
「……ミキコと同じクラスでない。よっしぁ!」
 トオルにとって、タカシと同じクラスになることよりもミキコと別のクラスになることの方が大事だったのである。
「ミキコちゃん、ぼくと同じクラスだよ!」
 タカシは情けない声で言った。
「あれ、ほんとうだ! おめでとう」
 トオルは、自分がミキコと別のクラスになり安心したせいか、ついそう言ってしまった。
「おめでとうじゃないよ!」
 タカシはすっかりきげんが悪くなった。
「いやだなぁ。命令されるのいやだなあ。おせっかい女子め!」
「タカシくん、聞こえるよ! 来てるよ。来てるよ」
 トオルは、近くにミキコがいることに気づいて、それとなくタカシに知らせるのであった。


   2
 今日は新学期の始業式である。タカシたちは晴れて四年生。トオルは晴れ晴れとした顔であるが、それにくらべてタカシは浮かない顔である。
「今度の先生、どんな先生かな? コワイ先生だと兄ちゃんが言ってたけど。タカシくんの先生はどんな先生?」
 トオルは新しい担任の先生がしきりに気になり、おまけにタカシの先生までも気になるようだった。
「ぼくはそれどころじゃないよ。」
タカシはむっとして言った。
「あ、そうか。タカシくんは担任の先生よりも今は、ミキコのことだよね」
「ミキコはわるい子じゃないよ。少しだけおせっかいなだけだよ」
作品名:キモチのキャッチボール 作家名:mabo