【創作】「rain」【BL】
研究所には、何処か緊迫した空気が漂っている。レインが襲われたニュースは既に伝わっているだろうが、まだ安否不明のままだろう。ルークは確固たる足取りで、レインの研究室へ向かった。
別れた時と変わらぬままの室内に、ルークは一瞬足を止める。だが、直ぐに気を取り直して、ノートパソコンを机に置いた。
此処なら、家族も直ぐには来ないだろう。
画面に現れたパスワード請求に、ルークは一文字ずつ、慎重に打ち込む。一度でも間違えれば、機会は永久に失われるのだ。どうか聞き間違いではありませんようにと、祈りながらエンターキーを押す。
真っ黒な画面に息が止まりそうになったが、直ぐに起動音がして、レインの顔が浮かび上がった。
レイン・・・・・・!
ぼやけた視界の向こうで、レインが戸惑いがちに微笑んでいる。ルークは画面の角度を変えて、カメラが自分を写すように調整した。
『おはよう、ルーク。私が起きたということは、本体は駄目だと言うことですね』
穏やかで冷静な声に、ルークも手で顔を拭いながら、「残念ながら、そういうことだ」と返す。
「後悔しているか?」
『いいえ。自分で望んだことですから。でも、貴方に触れられないのは寂しいです』
困ったように笑う顔も、穏やかな声も、生前のままだ。ルークは、画面に映るレインの頬を指先で撫で、
「レイン、私がそちらに行こう。永遠に、離れることのない世界に」
躊躇い無く発せられた言葉に、画面の向こうのレインが目を見開く。
『ルーク!? 何を!?』
「今の君なら出来るはずだ。僕をデータ化してくれ、今すぐに」
『待って、そんな急に・・・・・・。まだ、私も完璧かどうか分からないんですよ。検証して、問題がなければ』
「時間がないんだ、レイン」
ルークは拳銃を取り出すと、銃口を自らのこめかみに押し当てた。画面の向こうで、レインが悲鳴を上げる。
『ルーク! 駄目です! そんな!』
「イエスかノーかで答えてくれ! さあ!」
ルークが本気なのを感じとったのか、レインは悲しげな顔で頷いた。
『分かりました・・・・・・だから、その銃を下ろして』
拳銃をしまったルークに、レインは「後悔しませんか?」と問いかけてくる。ルークは、その言葉に笑みをこぼした。
「自分で望んだことだ。君のいない世界に、未練などないよ」
発砲音がしたとの通報に、警備員が駆けつける。彼らが見たのは、レイン・エリスン博士の机に突っ伏し、事切れた状態のルーク・ウィンドフォード少佐だった。
作品名:【創作】「rain」【BL】 作家名:シャオ