えさ(家に)帰りたい
祖母の隣にもう一人おばあさんがいる。祖母とそのおばあさんは、何と生年月日が同じである。明治四十三年一月三日生まれである。勿論、ともに百三歳。偶然とは言え、奇跡である。同じ生年月日である確率はそれほど高くはないと思うが、百歳を越えるという確率はかなり低いであろう。さらに同室に居合わせる確率ときたら、もはや想像を絶する確率ではないだろうか。そのおばあさんの生年月日を確認したのが、最後の面会の日だった。
祖母は平成二十五年十二月二十八日土曜日、午前七時二十七分、静かに息を引き取った。百三歳と三百五十九日。あと六日で百四歳であった。友引の関係で祖母は、二日間自宅で過ごした。
最後の半年間は食物も摂れず、点滴だけだった。そして、死期が近づくにつれて水分も制限された。あくまで想像ではあるが、本人にとってこの頃はまさに生き地獄だったのではないか。母に死にたいと洩らしていたという。まだ期限が決まっていれば我慢のし甲斐もあろうが、死ぬまで続くのであれば早く死にたいと思う。生きている者にとっては、なすすべがなく、無念のみ。いこれほどの酷い光景はないが、祖母は気丈にも耐えていた。明治女の真骨頂を見た思いであった。私には自慢の祖母である。祖母の作ってくれたポテトサラダは旨かった。ゆで卵の黄身を粉末状にトッピングしてあった。当時としてはなかなか洒落ていた。
作品名:えさ(家に)帰りたい 作家名:mabo