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月下美人

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夜の中でかすかな寝息をたてて 二人は眠る。
蒼ざめた月の中。
かすかに流れてくるメロディに眼をさます・・・
(ラジオの・・音・・・?)
流れてくる曲は昔聞いた〝DanceDanceDance〟淋しく優しい・・・
「1時・・・30分」
(真夜中ね)
月は明るく 眠っているかどうか判然としない総を見つめ流水は呟いた。

ふと気づいた小さなスケジュール帳
(日記帳?総の・・・・?)
(いつの間に?)
ずりおちかけた肩ひも、そのままにして。

6月19日
今日はママの誕生日だね いくつになるのかな?
通りかかった店の前で茶色の犬がボクを見つめてた
なんでだろ?
あの眼は流水と同じで
目の前で行い行われることのくいちがいを
示唆するような
そんなだった
きみはもっときらめいて白っぽいはずだ
ブラウスのボタン外す時にする香りは
ボクのためなのか
君自身のためなのか
耳なりがする
時の流れにそい
未だ早い
流水を見てからそしてから読んでくれ

6月25日
雨が降っている・・・だから流水のCOFEE CUPで
コーヒー飲んだ 流水ごめん
オレとなんかいたって仕方ない
別れのこともいいだせず
今日まで来た
7月20日風子が一年ぶりに帰って来るはずの日
さよなら―――
いえっこないよ そんな眼をしている君に
雨が降っている・・・春雨とはちがいすぎる
明日まで降っているんだろうか

一気にめくって19日昨日の午後の日付け
キャンパスは色んな人間が歩いていて
暑い
きのう読んだ本題名
忘れちまったそんな本で
時間無意味につぶして
めいってる
流水は
あした
明日は・・―――

日記はそこで終わっていた。
寒くて仕方なく自分の肩を抱いてさすり
またベッドにもぐる。
総はまだ死んだように眠っている。
(言いたいの・・・最後の言葉は・・・)
ベッドの中から白い天井を見つめて
(一度でいいわ、白い食卓、白い花をそえて)
白い広すぎる天井にはばらをしきつめて見えなくする。
(でも、それでもすぐにはがれてしまうわ)
髪が乱れたからとかしてみだだけ・・・アイシテル・・・

目覚めてみて朝のけだるさの中。
(流水がいない)
横にいるはずのベッドは冷たく。
(どこへいった?)
と、すぐに水のはねかえる音に気づいた。
何もまとわずシャワー・ルームのドアを開ける。
朝の光の中で霧のようにたちこめる湯気
それはまるで二人を永劫の彼方へと誘っているようだった。
裸のまま流水は立っていた。
「るみ・・・」
流水は微笑んで総に告げた。
「愛してるわ、総―ありがとう、さようなら」
流水がそれを云い終わらないうちに、
総は流水を抱きしめた。
彼は泣いていた・・・。

7月20日 午後一時
一人の女が鳥のように大空へと身を投げた。
それはまるで楽しそうに何かを見つけて
飛んだようだったという・・・
後に彼女は妊娠していたことが判明した。

アイシテルワ・・アリガトウ・・・ソウ・・サヨウナラ・・・

月下美人は儚く散ってしまう美しく白い花・・―――。



-Fin-
作品名:月下美人 作家名:中林高嶺