ジレンマ
第一話 私
きーん
普段なら特になんでも無い。普通の暇な時間の始まりを告げる合図だ。
こーん
学校の授業ほど退屈なものは無い。聞きたくもない先生の解説。チョークが黒板に擦れる音。それらを6時間に渡って聞かされるのだ。
かーん
走る生徒の音がする。チャイムと同時にダッシュして先生よりも先に教室に着く遊び。なにが楽しいのだろう。
こーん
「ごらぁぁぁ!!!廊下走んじゃねぇぇぇ!!!」耳の痛くなるような体育教師の罵声。なぜあんな大声が出るのだろう。なぜ廊下はあんなにも走りたい欲求にかられるのだろう。
そんな「バカ」達を一瞥しながら私は冷静な足取りで玄関へ向かっていた。
いや、冷静を装っていた。
実際は、恐怖の海の底だった。
「西島さん」
不意に何者かに私の名前を呼ばれた。
私は飛び上がり天井に盛大に頭をぶつけた。
とまではいかなくとも確実に私を呼び止めた者には、私がピクンと反応したのには気づいただろう。
私はゆっくりと振り返る。
チャイムは鳴り終わり、冷たさも感じる静けさが辺りに広がった。
そこに立っていたのは、飯島沙羅だった。