見えない僕と私の色
彼に言われるまで気付かなかった。
言われるまでもない。相手の考えていることまではわからないのだ。
この前映画を一緒に見た彼女についても同じ。彼女が自分の不甲斐なさを責める時に汚い「色」を出すとしても、それがイコール自分にむかついていると限られた話ではない。
もしかしたら、心の中では誰かに悪態をついているのかもしれない。自分の所為ではないのに、と。でも、それは私にはわからない。
そう思うと、なぜだか安心した。自分は他の人となにも変わらない。そう思えた。
そして、自分に「色」がないことなんて大した問題ではないとも思えた。
この「色」はただの特徴、人によって違うだけの話なのだ。それなのに、私は「色」がないことを悪いことのように考えてしまっていた。ただの特徴に、なぜそうなのか、と問いかけても意味はない。特徴とは、そういうものだ。
オンナの勘、なんて言うものではない。ただ、不思議とそんな気がするのだ。
彼女の清々しい表情を見て、僕の言いたいことは伝わったのかなと思った。
きっと僕も、映画を見た後はあんな表情をしていたのだろう。
心を読めても、本心とは限らない。だって、その時読んだ心の中は、たまたま思いついた言葉を復唱しているだけかもしれないから。たまたま、昔を思い出して悪態をついているだけかもしれないから。そんなものなんて、あてにならない。
映画の彼はそう言い切った。
僕たちはみんなの声の「色」を見ることができる。その「色」は、話している人の感情を表していて、僕たちは相手の気持ちを完璧に把握することができる。
ただ、それだけのこと。
相手の気持ちを知ることができても、相手の考えがわかるわけではない。僕たちは少しほかの人より察しがいい人、というだけのことだ。
そのことに気付くまで、随分時間がかかってしまった。
彼女から食べ終わったとうきびを受け取って、ゴミ箱に捨てに行く。後ろから、彼女がついてきた。
彼女を振り返って、思う。
僕も彼女も、「色」がない。もしかしたら、それに意味はないのかもしれない。だとすると、それは悩むだけ無駄なことだ。
……まぁ、それでも僕は考えてしまうのだろうけど。
思わず苦笑してしまう。
ただ、確かなことがある。それは、「色」がなくても彼女には僕の言葉が伝わるし、僕には彼女の言葉が伝わるということだ。
カラフルな世界の中で、僕らの言葉は見えないけれど、それはきっとどこまでも飛んで、誰にでも届くはずだ。
力強く、まっすぐに。