小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
たららんち
たららんち
novelistID. 53487
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

見えない僕と私の色

INDEX|4ページ/4ページ|

前のページ
 


 彼に言われるまで気付かなかった。
 言われるまでもない。相手の考えていることまではわからないのだ。
 この前映画を一緒に見た彼女についても同じ。彼女が自分の不甲斐なさを責める時に汚い「色」を出すとしても、それがイコール自分にむかついていると限られた話ではない。
 もしかしたら、心の中では誰かに悪態をついているのかもしれない。自分の所為ではないのに、と。でも、それは私にはわからない。
 そう思うと、なぜだか安心した。自分は他の人となにも変わらない。そう思えた。
 そして、自分に「色」がないことなんて大した問題ではないとも思えた。
 この「色」はただの特徴、人によって違うだけの話なのだ。それなのに、私は「色」がないことを悪いことのように考えてしまっていた。ただの特徴に、なぜそうなのか、と問いかけても意味はない。特徴とは、そういうものだ。
 オンナの勘、なんて言うものではない。ただ、不思議とそんな気がするのだ。

 彼女の清々しい表情を見て、僕の言いたいことは伝わったのかなと思った。
 きっと僕も、映画を見た後はあんな表情をしていたのだろう。
 心を読めても、本心とは限らない。だって、その時読んだ心の中は、たまたま思いついた言葉を復唱しているだけかもしれないから。たまたま、昔を思い出して悪態をついているだけかもしれないから。そんなものなんて、あてにならない。
 映画の彼はそう言い切った。
 僕たちはみんなの声の「色」を見ることができる。その「色」は、話している人の感情を表していて、僕たちは相手の気持ちを完璧に把握することができる。
 ただ、それだけのこと。
 相手の気持ちを知ることができても、相手の考えがわかるわけではない。僕たちは少しほかの人より察しがいい人、というだけのことだ。
 そのことに気付くまで、随分時間がかかってしまった。
 彼女から食べ終わったとうきびを受け取って、ゴミ箱に捨てに行く。後ろから、彼女がついてきた。
 彼女を振り返って、思う。
 僕も彼女も、「色」がない。もしかしたら、それに意味はないのかもしれない。だとすると、それは悩むだけ無駄なことだ。
 ……まぁ、それでも僕は考えてしまうのだろうけど。
 思わず苦笑してしまう。
 ただ、確かなことがある。それは、「色」がなくても彼女には僕の言葉が伝わるし、僕には彼女の言葉が伝わるということだ。
 カラフルな世界の中で、僕らの言葉は見えないけれど、それはきっとどこまでも飛んで、誰にでも届くはずだ。
 力強く、まっすぐに。
作品名:見えない僕と私の色 作家名:たららんち