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たららんち
たららんち
novelistID. 53487
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欲しいもの、大切なもの

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 言うことを聞かない自分の身体に鞭を打ち、私は歩き出しました。向こうに、私のまだ見ぬ友達が待っているのです。行かないわけにはいきません。
 たった数メートルを進むのに、何分も時間がかかります。ようやく彼を通り抜け、少ししたときに私はふと、聞いてみたいことがあったのを思いだしました。
「あ、なたの名前を、教えて」
 振り返って彼に問います。彼は、顔だけをこちらに向けてこういいました。
「私に名前はございません。よろしければ、あなたが名づけていただけませんか?」
 先ほどとは違い、その声に棘棘しいものはありませんでした。少し、笑顔を浮かべていた気さえします。
「それじゃあ」
 私は思いついた名前を彼に言いました。
「それはそれは、とてもうれしい名前です」
 彼は今度こそ笑顔を浮かべていいました。
「さぁ、行ってください。その向こうへ」
 彼は私に完全に背を向けるとそう言いました。それは私のことを突き放すのではなく、私の背中を押してくれているような、そんな気がしました。
 私は少しずつ歩き、止まり、意識を保とうとしました。もう少しで、この石畳の橋も終わりです。これが終われば、私はきっとベッドの上にいることでしょう。身体の不調と戦い続けることになるのでしょう。
 けれど、それはきっと永遠ではありません。いつかきっと、私も外を本当に駆け回れるはずです。
 意を決して、私は最後の一歩を踏み出しました。
「私にとっても、あなたは大切な人です。どうか、笑っていてください」
 聞こえるはずの距離ではないのに、彼がそういっているのが確かに耳に届きました。

 目が覚めると、案の定私はベッドの上にいました。けれど、予想外のことがひとつありました。私の頭の左側には、ベッドに顔を伏せている母が。そして、右側には彼がいたのです。
 彼は私を静かに見つめていました。その目に見つめられると、私は不思議と勇気が湧き、こんな辛さ、なんとも無いと思えるのでした。
 それからの私の変化は、医者も私自身も目を見張るものでした。気苦労は猫を殺す、日本では病は気から、ですか。といいますが、それは本当のようです。
 え、彼の名前ですか? 改めて言うのは少し恥ずかしいですけど。
 私は彼にこう言ったんです。
 チェリッシュ、大切な人、と。