穴
「僕は今まさにハンターだ」普段とは違う光景の中を猛スピードで駆け抜けるうちに理性が動物的な本能に侵食されていくのを感じ、実際にその言葉を喋ったのかどうかもわからない。無機質なはずの職員室が背の低い草原で覆われたサバンナに姿を変え、だだっ広い地表を撫で付けるような根源的な乾いた風を感じた。その風は、まるで全ての生命を否定するようなむきだしの無を孕んでいた。それはにおいを消し、色を飛ばし、感覚を殺した。僕は一個の指向性になった。
あらゆる景色は消し飛び、黄ばんだ白線の束になった。僕はその中をただただ突き進む。視界は線で埋め尽くされる。もはや進んでいるのか止まっているのかもわからない。何もわからないし感じない。ただ、たぶん何かに向かっているのだろう。そう思わないことには自分が生きている価値を見出せないし、自分が生きていることに価値があるということはこれまでも漠然と感じてきたのだから、おそらく価値があるだろうし、おそらく何かに向かってこの命を燃やしているのだろう。だとすれば、これもまんざら悪くない人生だと思う。僕はどこかに向かっているし、僕の人生は向かうことに生涯を捧げる人生だという、シンプルで飾り気のないものであると自分で納得できるからだ。自分の人生がかくも単純で、かつ納得のいくものであったことに幸せを感じ、途端に誰かに話して聞かせたくなった。僕の人生は物語の無い一つの・・・