連載小説「六連星(むつらぼし)」第31話~35話
あまりもの文面に、思わず響が目をそらす。
吐息をもらし、うつむいてしまった響きの肩へ、英治が優しく手を置く。
ピクリ、と拒絶にも似た反応を示した響の頭を、英治がさらにやさしく
押さえこむ。
「こらこら。いきなり襲う訳じゃない。早合点をするな。
冷蔵庫からビールを持ってきた。
夕食の前に、軽く一杯飲んで、今日は早いところ寝ちまおう。
お前も知ってる通り、俺はアルコールに強くない。
だが、お前みたいに可愛い女とひとつの部屋に一緒に居ると、
理性とは全く別に、欲望というやつが暴走をはじめるかも知れない。
そこで、俺なりに考えてみた。
酔っ払って先に寝ちまえば、後はどうにもならん。
そう言う訳だ。意志の弱い男と一杯だけ、ビールをつき合ってくれ。
お前さんの、大切な、純潔を守るためにもさ」
「・・・・ねぇ、英治。ひとつだけ教えて。
私は今まで、被災地は、復興が進んでいるとばかり考えていた。
でも駅前には相変らず支援者たちがいるし、ボランティアの人も大勢いた。
今夜だって、たくさんの人たちでホテルが溢れている。
仙石線の松島駅から線路が途絶えていて、そのために代替えのバスにも乗った。
3・11のあの日から、もう一年以上が過ぎたというのに、
被災地の復興の現状は、いったい、どうなっているんだろう・・・・」
「君が今日、ここまで来るあいだ、その目で見てきた光景がすべてだ。
依然として、変わっていないんだよ、被災地は。
津波に襲われて、あれほどの大量の瓦礫に埋め尽くされていた町が、
今はたしかに、綺麗になった。
だがそれは、瓦礫が一か所に集められたというだけのことだ。
焼却作業は、全体の5%が終了しただけだ。
それどころか、今度は、あちこちで放射能の除染作業のおまけまで発生した。
此処では、いったいどれだけの人材と費用が、必要になると思う?
だからこそ、仕事に群がるゼネコンどもが集まって来るんだ。
利権を狙ったやくざ組織も、暗躍をしている。
被災をした東北一帯は、まだまだ復興の前夜にすぎない。
嘘だと思うのなら、明日の朝、このあたりを歩いてみたらいい。
このあたりの廃墟の様子が、被災地であることを、
君に、如実に物語ってくれるから」
「そんなに、遅れているの!・・・被災地の復興は」
「送れているどころか、手がついていない、というのが実情さ。
それが東北の、一年後の現実というやつだ。
あれから一年経ったが、政府もマスコミも、東北の復興の遅れについては
責任を逃れたまま、いまでは放置さえしている。
復興のための大金は投じたが、政治的には、なにひとつ援助しょうとしない。
ある意味で、自力の復興待ちっていうやつを期待している。
政府が再生の責任を放置したせいで、住む家を失った人たちは、
いまだに仮の住まいに缶詰になったままだ。、
あたらしく移転する高台だって、なにひとつ具体的に決まっていない。
広範囲すぎる、甚大な災害ってやつを受け過ぎたんだ、此処は。
桁違いの大きな被害が、東北3県を襲ったせいだ。
明日になれば、そのことが良く分かる。
なぁ・・・北関東からやって来た、とっても可愛いお譲さん。
いけねぇ・・・もう、眠くなって来やがったぜ・・・
良く効くなぁ。東北のビールは」
(36)へつづく
作品名:連載小説「六連星(むつらぼし)」第31話~35話 作家名:落合順平