人でなし(?)の世界にて
「ギャ!!!」
バーナードは最後の相手を殺すと、ゼエゼエと激しく呼吸しながら、仰向けに寝転がる。
……高い天井を見上げた彼は、自分の最期を覚悟した。圧倒的に不利な戦闘により、彼は大きな深手を負ってしまっていた。おまけに、この急な傾きと浸水のせいで、ここから逃げられそうにない。衰弱した彼を待っているのは、死のみであった……。
「……先に行っている……からな、アンドルーズ。おまえは、後から……ゆっくりこい」
彼はそう呟くと、目を閉じた。リザードマンとは思えぬ、穏やかな表情であった……。
――アンドルーズとキャサリンは、海面に浮かぶコンテナの上にいた。2人とも無事な様子だ。脱出に見事成功したのだった。運がいいことに、周囲にリザードマンの姿は無い。
堂々と浮かんでいるコンテナとは対照的に、空母はどんどん沈んでいく……。じきに、海の底深くへ消えるだろう。
「やったわ!!!」
歓喜に舞う彼女は、彼に抱きついた。
彼女のような美女に抱きつかれれば、たいていの男は喜ぶものだが、彼の表情は暗かった……。彼は、大事な親友アーノルドを失ったことを、沈みゆく空母を見届けながら実感していた……。
キャサリンは、彼にまた喝を入れようかと思ったが、空気を読んでやめた。
「お〜い!!! 大丈夫か〜!?」
近く浮かんでいたボートから声をかけられた。懐中電灯でライトアップされる2人。奇跡的に脱出できた人々が見つけてくれたのだ。
「私たちは大丈夫よ〜!!! 早く助けて〜!!!」
元気よく手を振るキャサリン。
「バーナード。おれは、おまえの分まで必死に生きる。そして、後から必ず追いつくからな」
アンドルーズは、沈む空母に向かってそう呟いた……。
それから、彼も手を振り始めた……。バーナードを安心させるかのごとく、大きく手を振って……。
作品名:人でなし(?)の世界にて 作家名:やまさん