愛されたがりや
そよそよと吹く夏風が、心地好く私の頬を撫でた。
風が流れるたび、草木が生い茂る匂いをあちらこちらに漂わせる。
帯広にいた頃は、よく風の匂いで季節の移り変わりが分かったものだ。
春は春の匂い。
夏は夏の匂い。
秋は秋の匂い。
そして、冬は冬の匂い。
そんな季節を感じて、私は帯広で生まれ育った。
父も母も優しく私を育ててくれた。
私はいつも、両親からも、兄からも愛されていた。
けれど、弟が生まれてから生活は一変した。
私中心の生活ではなく、弟中心の生活が始まった。
そこからなのかもしれない。
私が変わっていったのは。
子供ならではの嫉妬心。
幼き私に種を蒔き、成長とともに芽を息吹かせ、そしてある日、愛されたがりや、という名の大輪の花を咲かせたのだった。
姉としては、弟は可愛い。
けれど、全ての愛を根こそぎ持っていく弟が許せなくなっていた。
今思えば、弟も私も平等に愛情を与えられていたのだろ。
でも、あの頃の私はそう思わなかった。
いや、そう思えなかった。
未熟さ故の浅はかさ、だったのだろう。
弟への憎悪は、日毎に増していく。
抑え切れない心は、思うだけじゃ飽き足らず、ついに矛先を変え父に投げつけていた。
しかし、父は何も言わなかった。
いつもの笑顔で、私をただ見ているだけだった。
思いをぶつけても響かない父に、私のことはもう興味がないのだ、と。
どうでもいい存在なのだ、と思うようになった。
私は愛されてはいない。
居ても、居なくても、もうどちらでも良い存在。
兄や弟がいればそれでいい、と―――。