愛されたがりや
いつの間にか眠っていたらしい。
目を覚ますと辺りは薄暗く、目が慣れるまで暫らく掛かった。
「あっ!時間は?」
慌てて飛び起き、時計を探す。
時刻は、既に午後9時を回っていた。
夏樹が、マンションに戻っている時間帯だ。
部屋の明かりをつけ、私は急いで出掛ける準備をする。
鏡に向かい合い、身なりやお化粧のチェック。
夏樹が褒めてくれたグロスをぬり直し、手櫛(てぐし)で髪を整えた。
姿見で後ろ姿もチェックしてから、よし!と気合を入れ、そして私は意を決し部屋を後にした。
数時間前に襲った吐き気は、今は感じられなかった。
胃の中にあった異物感も、不思議と消えていた。
あれは夢だったのだろうか―――。
地下鉄を乗り継ぎ、30分ほど時間を費やし夏樹のマンションに辿り着いた私は、躊躇(ためら)うことなくインターホンを押した。
そういえば、夏樹に合鍵を貰っていなかったんだっけ……。
そのことを、今更気が付く。
でも今は、そんなことはどうでも良かった。
こうして、夏樹に会いに来ているのだから。
もうすぐで、夏樹に会える。
早く会いたい。
夏樹に、早く会いたい。
急かす心とはうらはらに、夏樹は一向に姿を現さない。
どうしたのだろう……。
留守のはずがない。
ちゃんと部屋の明かりを確認してから、玄関前まできたのだから。
もう一度、インターホーンを押す。
それでも、夏樹が出てくる気配はなかった。
嬉々する心が、不安に変わる。
今度は、インターホーンを連打した。
それでも、夏樹は一向に出てことうとしない。