小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

愛されたがりや

INDEX|5ページ/58ページ|

次のページ前のページ
 

「もしもし?何?」

「ねぇちゃん、バカだろう?」

弟、佑斗の第一声。私と母のやり取りを聞いていて、それで電話をしてきたのだろう。

弟の行動が目に浮かぶ。

「で、何?」

「母さん、泣いてたぞ」

「バカね、あんた。それは、お父さんが亡くなったからでしょうが」

「ちげ〜よ!ねぇちゃんのせいだろ?母さんが泣きながら、いつからねぇちゃんはそんな薄情な子になってしまったんだ、って言ってたんだからな」

「あっそうっ。で、あんたは、そんなことを言うために、わざわざ電話をしてきたってわけ?あんたには、ホント呆れるわ〜」

「な、なんだよ、それ〜」

弟がムッとしながら言った。

「薄情なのは、元々よ。そんなこと、改めてあんたに言われなくたって、自分でもよ〜く分かってるわよ。それより、今忙しいんだって!もう、電話してこないで!」

母と同じく、弟の電話も有無を言わさず一方的に切った。

急に部屋の中がしんと静まり返る。

いや、元々静かだったのかもしれない。

昨日からずっと殺気立っていた私は、それに気付かなかっただけ。

だって、夏樹の声がずっと耳から離れないでいるのだから。

私の耳もとで、あの夏樹の心地よく響く声が今でも残っているのだから―――。

私は、天を仰ぎ浅く息を吐いた。

薄情な子、か……。

そう呟き、弟の言葉を反芻(はんすう)する。

そして、家を出たきり帰らなくなった実家を思い出した。

今、実家にいるのは、父、母、兄の一斗と弟の4人暮らしだ。

家を出たのは私だけ。

と言っても、兄は長男だから家を出ない。

弟は、大学を卒業して社会人になったばかりで、実家を離れて一人暮らしはまだ考えていないだろう。

二つ違いの兄と私、そしてそれより少し歳が離れている弟は、甘やかされて育ってきた。

自立、という言葉とは無縁で生きているようなものだ。

それに、何よりも弟は母親が大好きなマザコンである。

だから、兄に出て行けとでも言われない限り、弟は母親のそばを離れないだろう。

兄も、弟も、両親との仲は良好といえる。

そんな4人のことだ。

家族として、仲睦まじく穏やかな生活を送ってきたのだろう。

けれど、今日父が亡くなった。

残された3人は、これからどうやって生きていくのだろうか、と私は他人事(ひとごと)のように思った。

やっぱり、私は薄情なのかもしれない。

父が死んだと聞かされて暫らくの時間が経ったにもかかわらず、涙はおろか、打ち拉(ひし)がれるような悲しみも襲ってもこない。

それだけ、父との関係が希薄だったということなのか。

親子であって親子ではない、お互い疎(うと)ましい関係だったことは明白で、そして何よりも他人のように遠い存在でしか思えないのだから。

そんな関係なのだから、次第に話すことも、顔を合わすこともなくなり、居心地が悪くなっていくのは当たり前のこと。

そのうちに、私に疎外感だけが付き纏うようになっていったのだから。

私はそんな生活から逃れるため、高校を卒業と同時に地元を離れ札幌に行くことを決意した。

そのことに、父は反対をした。

何故、父が反対をしたのかは分からない。

たぶん、単なる嫌がらせなのだろう。

私が嫌いだから。

そんな父の反対を無理矢理押し切り、その苦痛から逃れるために、実家のある帯広を逃げ出した。

それから10年。

実家には、ほとんどというより全く帰っていない。

帰ったとしても、きっと私の居場所はないだろう。

だから、どんなことがあっても帰らなかった。

いや、帰りたくなかった。そんな場所になんか………。

そぐわない関係とは、親子という関係も壊すのだろうか―――。

携帯を握り締めたままぼんやりしていた私は、外界から聞こえてきた車の轟(とどろ)きで我に返った。

あっ、会社?

ふと時計を見ると、もう出勤しなければいけない時間だった。

慌てて、泣き腫(は)らしたむくんだ目に目薬をさし、アイメークを入念にする。

それでも、今日の顔は最悪だった。

出来れば休みたい。

そうも思ったけれど、やはりそうもいかない。

皆に迷惑を掛けることはしたくなかった。

だから私は、自分に気合を入れ、目の眩(くら)む太陽の下を颯爽(さっそう)と歩き、会社へと向かった。
作品名:愛されたがりや 作家名:ミホ