愛されたがりや
「ねぇ、お母さん?」
「なんだよ、ねぇちゃん?今、こっちが話してるだろ?」
弟がムッとしながら、私を睨む。
けれど、私はそんな弟を無視して話し続けた。
さっきのお返し、みたいなものだ。
「アタシ、明日帰るわ〜」
「そう。じゃ佑斗、おねぇちゃんを駅まで送っていってあげて」
そう言って、母は佑斗に微笑んだ。
「え〜?なんで俺〜。兄ちゃんは〜?」
私がさっきやった反応を、弟も示す。
やはり、私達は紛れも無く姉弟(きょうだい)らしい……。
「アタシ、タクシーで駅まで行くから、いい。午前中には家を出とうと思ってるから。それに、寝てる佑斗を叩き起こしてまで連れてって貰うのも面倒だし」
ただ単に、弟にお願いをして送って貰うことが癪(しゃく)だっただけなのだが……。
「なんだよ、それ〜。ねぇちゃんよりは、早く起きてるつもりだぞ〜」
「午前中って、何時?アレだったら、お兄ちゃんにでも駅の近くにおろして貰ったら?」
憤慨する弟のそばで、母がそう提案した。
私は、一瞬考えた。
そうだな……。
それも有りか。
なら、お兄ちゃんがそれでもいいって言ってくれるなら……。
と呟き、JRの時刻表を確認した。
兄の出勤に合わせてここを出発するとなると、朝はかなり慌ただしくなるかもしれない。
けれど、それも致し方ないだろう。
それ以上に、私はやらなければいけないことを思い出したのだ。
忘れていた訳じゃないけれど、どうしても周りに誰かがいるとつい心が紛れて忘れがちになってしまう。
少しでも早く、札幌に戻ることを考えなければいけなかったのに……。
札幌に戻ったら、すぐに夏樹に会いに行かなきゃいけないのに……。
夏樹に会って、ちゃんと弁解しなきゃ。
誤解されたまま、いるのは嫌だ。
だから、夏樹に会って誤解を解きたい。
そして、またいつもの私達に戻りたい。
いつもの私達に……。
夏樹、早く会いたいよ。
会って、久し振りに抱き締められたいよ。
抱き締められたら、やっぱりキスもして欲しい。
そうなると、夏樹に抱かれたくなる。
夏樹の肌に頬擦りして、それから―――。
一度膨らんだ妄想は、止め処無く私の身体から溢れ出し心が踊った。
夏樹は、私が帰って来るのを首を長くして待っているかもしれない。
そう思ったら、私は居ても立ってもいられなくなった。
だからといって、すぐに帰れる距離じゃないことくらい分かっている。
札幌との距離が憎らしい。
どうして、こう北海道は広いんだ!
と愚痴ったとことで距離が縮まる訳でもない。
けれど、やっぱり早く会いたい。
夏樹に。
だって、私は夏樹しかいないのだから。
誰よりも、夏樹を愛しているのだから。
初めて、私に愛することを教えてくれた人。
それが、夏樹。
だから、私には夏樹しかいない。
私には、夏樹しかいないのだ―――。