愛されたがりや
「あ〜、ダメだ……。諦めた」
そう呟いて、持っていた携帯を放り投げた。
最新の台風情報のサイトを探すのも、どうやって札幌に帰ろうか、と考えることも段々面倒くさくなってきた。
「やっぱ、帰るの明日にするわ〜。ど〜せ、全便運休なんでしょ?」
「台風が、今日中に低気圧に変わってくれればいいんだけどね……」
と言って、母は窓から空模様を窺(うかが)った。
どうやら、明日の心配をしているらしい。
「ねぇちゃんの、普段の行いが悪いんじゃねぇの?」
弟がニヤニヤしながら言った。
「うるさいな!アンタには言われたくない。マザコン君」
「だから、なんなんだよ、それ〜?俺、マザコンじゃねぇ〜し」
はい、はい。今だけ、そういうことにしておきますか。
と、ムキになる弟を軽くあしらって、私は仕事のことを気にした。
仕事は、別に私がいなくても代わりに誰かがやってくれる。
私がいなきゃ、と言うこともない。
私の代わりは、沢山いるのだから。
けれど、私が休むことによって皆に迷惑を掛けているのは事実。
ま、事情が事情だけに仕方のないことだろうけれど。
でも、もし本当に明日も帰れなくなったら、課長に連絡をしなければ……。
そう思ったら、気が重たくなった。
あの課長のことだ、私に憐れみの言葉をイヤと言うほど投げつけてくるだろう。
本人は心配してのことだろうが、私にははた迷惑な話だ。
あ〜あ、気が滅入ってきた。
この邪魔は、間違いなく父のせいだ。
だって、弟には笑顔で出てきて、この私には怒りの形相で出てくるなんて、それはいくらなんでもおかしすぎる。
やはり、私に対する父の恨みは根深いということなのだろう―――。
私は浅く息を吐き、そして空を見上げた。
先程まで晴れていた空が、今見ると雲行きが怪しくなってきている。
台風の影響だろうか。
遠くの方で、黒ずんだ雲が所々に浮かんでいる。
暴風域が徐々に十勝にまで広がりつつあるらしい。
そんな空を見上げたばっかりに、私の気分は更に憂鬱になってきた。
鬱屈した心は、この空模様のせいだろうか、それとも父のせいだろうか。
心に鬱積(うっせき)した憤懣(ふんまん)は、どこにも行き場所をなくししんしんと身体の奥深くに募っていった。