愛されたがりや
長い夜は、あっという間に通り過ぎていった。
夏樹とは相変わらず連絡がつかないまま、私は携帯を片時(かたとき)も離せぬまま眠れない夜を過ごしていた。
夏樹との連絡が途絶えた日から、私の心は膨らみ続け張り裂ける寸前だった。
限界に近いのかもしれない。
こんなに夏樹と会えないことも、連絡がつかないこともなかった。
私達は、ずっと一緒だった。
アタシ、夏樹がいなくなったら死んじゃうかも……、っていつも冗談で言っていた。
でも、冗談じゃなかった。
私は本気で言っていた。
だから、今死にたいくらい辛い。
限界に近い。
なんていうのは嘘。
もう限界だ。
だから、ふと夏樹の顔がよぎるたびに、自然と涙が溢れ出す。
一度流れた涙は、なかなか止まらない。
我慢すればするほど、意地悪な涙は零れ続ける。
もう二度と会えないかもしれない。
って、そればかりが思い浮かぶから。
最悪な状況ばかりが、私を支配するから。
泣かないように我慢するのに、もう一人のアタシが意地悪をする。
ねぇ、もう二度と会えないの……?
ねぇ、夏樹。
教えてよ?
アタシ、不安なんだよ。
不安に押し潰されそうなんだよ、夏樹………。
私の、唯一のより所。
それは夏樹だった。
夏樹がいたから、私は心穏やかに毎日を過ごせていた。
淋しさもなかった。
それなのに、そのより所を今私は失いつつある。
それが今は辛い。
辛くて、苦しくて、淋しい。
涙が止まらない。
父の死で味わうことのなかった負の感情。
それが、夏樹と会えないことで後から後から溢れ出して止まらない。
いつまでも流れ続ける。
そして、私に更なる痛みを与える。
まるで、拷問のように………。
朝陽がゆっくりと顔を出す。
その様子を、窓越しからただただ眺めていた。
朝は、生きている者には必ず平等にやって来る。
その思い思いの朝は、誰のためでもなく、自分のため―――。
そんなこと分かっている。
全ての者達皆が平等であるように、朝も、昼も、夜も、昨日も、今日も、明日も、そして明後日も、全部の時間が平等だってことを。
目の前にある太陽が誰のものでもないように、この朝も誰のものでもなく自分のためだけにあるってことも。
分かっている。
分かっている。
分かってる。
けど……。
なのに、なんで?なんで私は、夏樹に会えないの?
私にとっての問題は、平等とか、時間とか、太陽が誰のものか、とかじゃない。
どうして、夏樹は私に連絡をくれないのか、ってことだけ。
こうも夏樹と連絡がつかない今、それを邪魔しているのは父じゃないか、と思わずにはいられない。
分かっている。
それは滑稽すぎるほど、理不尽なことだってことも。
でも、誰かのせいにしたかった。
じゃなければ、私はダメになってしまう。
だから、私は父のせいにした。初めて、心の弱さを認めた瞬間だったかもしれない。
見たくなかった自分。
直隠(ひたかく)しにしてきたもう一人の自分が、こんな時に姿を現すだなんて、なんて皮肉な話だろうか。
それもこれも、やはり父が原因だ。
全ては父の呪縛であり、もがき苦しむ私に更なる苦痛を与えようとする父の策略。
追い込まれているにもかかわらず、父は更に追い討ちを掛けて、その上からまたきつくきつく苦痛という名の呪縛を与え続けようとする。
父を省(かえり)みなかった私に、罰を与えるかのように―――。