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ニューヨークトリップ 2

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夜の地下鉄と昼間の地下鉄では、まるで雰囲気が違う。

夜は人もまばらで、なんだか静かだ。
が、大きな声で歌声が聞こえて来た。
酔っ払いのおじさんがふらふらしながらこっちに近付いてくる。

怖い。視線をそむけ、下を向いた。
何を言っているのかわからず余計に恐怖が増す。

ホームで人目もはばからずにキスをしている女性同士のカップル。

暗闇で包まれたハーレムは、灯りが少なく、背の高い男性が歩いてるのを見ると少し緊張感が走る。


けたたましいサイレンの音で目が覚める。
そんなのも日常だから慣れて来た。
外で誰かの怒鳴り声が聞こえる。
やっぱり物騒だな。

昼間の地下鉄は、活気に満ちて居て、誰かのヘッドホンから音が漏れている。
こんなにも多国籍の人達を一度に見た事がない。

黒人の赤ちゃんがベビーカーに乗り、こっちを見つめている。
目がとても大きくかわいらしい。


「1,2,3,4…exactly!」

レッスンで、先生の声が響き渡る。
ヤバイ、振り早い!
初めて受ける先生のレッスンは、とても新鮮だ。
少しゲイっぽい先生だが、ヒップホップJAZZの滑らかでキレのある動きがかっこいい。
日本に帰った時に振りが参考になるかも。

初中級クラスでもレベルは高く、振りについて行けず、張り切って前列の鏡の前に来てしまった事を後悔した。

二つのグループに分かれて踊ると、遅れたり、出来てないと目立ってしまう。

音楽がかかるとアドレナリンがフルに出て、ダンスだけに熱中出来る。
何もかも忘れ、ストレスも吹き飛ぶ瞬間だ。


日本人らしき子に話しかけてみるが、反応がイマイチだ。

こっちにいる子は皆、自己主張が強い。
1人で異国に来ているのだから、それはそうか。
強い意思を持って来ているのだろう。
私は仲間を作りたがるけど、皆それぞれ1人で居る事は気にならない様だ。

ドネーションCDの時、10ドルくれと言われて、出しそうになってしまった。
皆はハッキリと断れるのに、私は断れない性格。
私みたいにおどおどしてるような人はあまり見ない。
ここでは、自己主張しないと騙されてしまったり流されてしまいそうだ。


道端で大きな地図を広げ、美術館を探す。
そこへすぐに女の人が声を掛けて来た。
「どうしたの?どこへ行きたいの?」

親切に道を案内してくれた。
なんて優しい人なんだ。

ブランド店が立ち並ぶ5番街には、私みたいなリュックにスニーカーな奴は、似つかわしくない。

行きたかったチョコレート専門店を見つけ入ってみる。
私はチョコレート中毒でもある。
チョコレート専門店なんて夢の様だ。

お店の雰囲気も可愛らしかった。
中にはたくさんの種類のチョコが立ち並ぶ。
やはり高いのであまり買えないが、チョコレートケーキやお土産用のホットチョコレートを購入した。


メトロポリタン美術館は、世界三大美術館と言われるだけあって、かなりの広さで、とても半日では見切れそうもない。
絵画だけでなく彫刻もあり、エリア毎に分かれているので、絞らないと一つ一つを流してみる感じになってしまう。

エントランスの階段の所では、たくさんの人達が座り込み、食事をしたり語り合ったり。
本当に映画のワンシーンを見ている様だ。

こういう風景って日本では見ないな。


ニューヨークと言えばベーグルと言う事で、近くにあったベーグル屋さんに立ち寄る。

種類は、沢山あるがお金をあまり使いたくないので、シンプルなクリームチーズベーグルにした。

店員のおじさんはとてもにこやかで、陽気な人で、
「どこに行って来たの?」
と聞かれ、メトロポリタン美術館に行たと言うと、どうだった?と、聞かれたのでとてもきれいで気に入ったと応えた。

ベーグルを食べるのは初めてだが、柔らかいイメージがして、フォークをさそうとしたが、あまりの硬さに、ベーグルがすっ飛んだ!

隣の人の足元に落ちている。
あまりの恥ずかしさに赤面する。

ベーグルって、こんな硬かったんだ!
恥ずかしさでうつむきながら、残りのベーグルだけ食べる。


「もしもし、虹花?明日の朝、6時に起こしてよ。」

突然の拓也さんからの電話だ。

拓也さんは、地元では名の知れたダンサーで、地元のダンサーで拓也さんの事を知らない人は居ない。それと同時に女癖の悪さでも有名だ。
ダンサーとしてはすごいが、35にもなって、一人で起きられない。
彼女も居るが、居ない時は私に頼って来る。
私なら断らないと思ってるのだろう。

「無理。」
ハッキリと伝えると、明らかに不服そうな返事が帰ってくる。
「何でだよ?」

「今、ニューヨークなの。」

「マジで?ファンキーじゃん!」

たくやさんも何度かニューヨークに来ているが、彼の真似をしたとは思われたく無かった。
何で言わなかったんだと言われたけど、心配するかなと思った私が甘かった。。。

「何かお土産買って来てよ!」

どうしようもないのは、私の方かもしれないな。
そのどうしようもない奴と、同じ風景が見たいと思ってしまった。
少しでも近付きたいと思ってしまったのだから。

彼女になれないのは、分かっているし、都合良く使われているのも分かっている。
なのに、頼まれたら断れない。
頼られたり、甘えられたりするのは嫌いではない。

バカだなと思いながらも、足は靴屋に向かっている。
「ナイキの新モデルが欲しいな。」
そう言われて、ナイキばかり見ている。

スニーカーは、高いし、スーツケースががさばる。
他の物にしようと思い、ダンサーやスケーターに人気のSupremeで何か買おうと思った。

お店の場所を拓也さんに聞いた所で、どっかの駅の出口から右に出るんだよな。
と、かなり曖昧な説明。
迷いながらもお店を見つけたが、店の前は行列が出来ている。

Tシャツやキーホルダー、ステッカーを買った。


帰ってから、昼間買ったチョコケーキを食べる。
あまりの美味しさに感動し、誰かに伝えたく、キッチンにたまたまいた、ようくんに食べてもらう。

「甘いなー。」
反応が微妙だったので残念だった。
チョコ好きにはたまらないが、そうでもない人にとっては甘すぎるのかもしれない。


マキさんは、もう明後日帰国してしまうそうだ。
「もう、エンパイアステートビルは行った?」
まだ行ってないし、行ってみたかったのでもちろん行く事になった。

しかし、あいにくの天気で、曇って小雨が降って来た。しかも強風だ。
下から見ても霧で、ビルの上の方は見えない。
暗闇にぼうっと雲の中に緑の光が光っている。

中に入れば、客が見事に誰も居ない。
「すごい、貸し切りじゃん!
こんな空いてるエンパイア貴重だよ!」

ビルの警備員がこちらを見る。
「こんな日に昇るのか?何も見えないぞ!」
と言って笑っている。

外に出れば、絶景が…!
広がっているはずだった。

見事に雲で何も見えない。
警備員がほら見た事かという感じでやって来た。
強風の寒空の中、見えな過ぎて三人で笑った。

景色が見れなかったのは残念だが、わざわざ見えない日に、他の誰も来ない様な日に、貴重な貸し切り体験出来たのも良い思い出だ。

土産屋にも誰も居ない。
作品名:ニューヨークトリップ 2 作家名:虹花