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新撰組異聞__時代 【前編】

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 文久二年、暮れ。
 勇が、酒でもどうかと歳三を部屋に呼んだ。
 「トシ、先日義父上に呼ばれてな」
 「大先生が?」
 「行ってこいと」
 口に運ぶ歳三の杯が、ピタリと止まった。
 「私が切り出す前にだ。さすが義父上だ」
 勇は、軽く笑った。
 将軍上洛の警備___その浪士隊に参加する事は、近藤家を長く開ける事を意味する。跡取りとして養子に迎えられ、念願の武士にもなった。しかも、今や試衛館の道場主となった彼に、浪士隊参加は心を揺るがせた。
 「で、あんたはどうしたいんだ?勝ちゃん」
 「行くよ。私は京に」
 「そうか」
 「トシ」
 「云った筈だぜ。あんたの答えに、俺は従うと。行こうぜ、勝ちゃん。京で大暴れしてやろうぜ!なっ」
 「なって、私たちは大樹公の護衛に行くんだぞ?」
 「理由は何でもいいだろ」
 黒船を見に行ったあの時、胸を駆けたもの。
 あれより大きく、戦うには十分な相手。それは京にある。歳三は、あの頃漠然とししか感じられなかったものがそこにあるような気がしていた。
 そして練兵館では、小五郎も旅立とうとしていた。
 「桂先生、お国へ帰られると伺いました」
 「故郷が懐かしくなったのさ。長州が」
 「江戸にまた帰って来てください」
 「___ああ」
 その言葉通り、小五郎は帰ってくる。幕末の世が終わり、東京と名を変えた江戸に。明治政府の一人となって。
 ___いい歳の暮れになりそうだな。
 見上げる空から、舞い散る雪。
 時代と云う波は、小五郎の運命も変えていくことになる。