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悠里17歳

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11 帰郷



 帰りの飛行機は私一人だ。
 私はお姉ちゃんの一家に見送られLAの空港で別れる。涙はない。それ以上にありがとうの気持ちでいっぱいだった。今度みんなに会えるのはいつかわからない、次はもう一人増えているかな?お別れするのは寂しいけど、次への糧として明るく帰りたい。その気持ちはここにいるみんなが同じだった。
「きーちゃん、またね」
握手をして中々手を離してくれない甥の聖郷、本当は辛いのに必死でこらえる顔がかわいくてたまらない。カッコいいよ、それでこそ男の子だ。
「元気でね、悠里ちゃん」
 続いて篤信兄ちゃんと握手。背中を優しくポンポンと叩かれただけで気持ちが十分に伝わる。
「着いたら連絡してね。あと、お母さんにもよろしくね」
「ありがとう、お姉ちゃん」
本当はギュッとしたいけどお腹のこどもが許さないと無言で主張をする。なので私は代わりにその場でしゃがみこみ、お姉ちゃんのお腹に耳を当てた。
「また来るね、今度は会おうぜ」
そう言って手を当てるとまるで聞いているかのようにしっかりとした返事が帰ってきたので私とお姉ちゃんは思わず大笑いした。  
「ありがとう、みんな。悠里はもっと修行します!」
 私は背を向けて三歩進んで振り返りお辞儀をした。そしてまた前に向き直り、そしてもう振り返ることはなかった。
 私はみんなに背を向けて、左手を真っ直ぐ上にあげて手を振った。そして立ち止まり上を向いた。明るくお別れ出来るのはここまでが限界だ。長かったような短かったような10日間の記憶が一つの束になって襲いかかると、私の弱い感情はすぐにキャパ一杯になる。
「負けるな、悠里!」
 私は自分に檄を飛ばしつつ首から紐を通してぶら下げた革鍔を握り締め前へ歩き続けた。すると足は不思議と帰る方向へ進み出した。

   * * *

 行くときはお兄ちゃんと一緒だったのでスムーズに行けたから、帰りはどうしようと不安に思っていたのが10日ほど前のこと、その不安はどこへ行ったのか私は大きな困難もなく飛行機に乗り込むことができた。入国にあんなに緊張したのに出国はゲートどころかパスポートを見せることすらない。出るものは知らん、みたいな感じで合衆国らいいといえば合衆国らしい。帰国して日本国のパスポートに判を押されるとYuri Kuraizumiは倉泉悠里に戻る。どっちが本当の自分なのか、そんなことはもうどうでもよくなっていた。だって、どっちも本当なんだから。
「さようなら、みんな。それと、ありがとう」
飛行機のタイヤがアメリカの大地から離れた。来た時に見た知らない街の風景は、ほんの10日ほどしかいなかったのに何年もここにいたかのような懐かしいそれに見えた。雲を越え、陸も見えなくなるとシートベルトのサインが消え、機内の緊張が解けるとともに私の気持ちも少しずつ元に戻る作業を始めているのが分かる。

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔