悠里17歳
「悠里の質問に答えるなら、スティーヴンは今も稽古に来ている。そんなことがあるんだな――」
エディはお茶をすすり、それから腕組みをした。
「じゃあお父さんはここへ稽古に来てるの?」
エディはすぐさま頷いた。
「仕事があるから、本当にたまにだけどね」
「あたしは知らなかったわ……。お父さんそんな事言わなかったもん」
お父さんの近くに住むお姉ちゃんも知らなかったみたいだ、反応に嘘がない。私も、エディも、お姉ちゃんも同じ人物について話をしているのに、それぞれ違う方向からサイコロを見ているように、まるで違う人物について話しているようだ。
「それで、ステファンから聞いたけど、お父さんはエディが勝てないほど強いの?」
大きな体を揺らしてエディが笑う。
「確かに若い頃は相手にもしてもらえなかったよ。それも随分前の話だ」
そう言ったあとエディは考え込み始めた。姪の話を聞いて兄の知らない一面に気付いたのだろう。
「じゃあ、何で日本ではしなかったんだろう?」
たまにではあるが今も稽古をしているのに、日本ではしなかったことに腑に落ちない。剣道は生涯通してできるものだ。今しているということは日本にいる間ブランクがあったほうがむしろ不自然である。
「わからないな、ただ――、思い当たるところがある」
エディは組んだ腕をほどき、湯呑みに手を伸ばした。
「僕だって半分は日本人だから、いつかは父の故国に行ってみたい、ただ――日本の事を質問するとスティーヴン、兄は日本について『いいところだ、だけどシビアだ』と説明するだけで、僕に薦める事はしないんだ」
確かに日本にいた頃のお父さんは日々の生活が窮屈そうだったのは間違いない。しかしその原因についてはここにいる親戚の誰もがわからないようだ――。
「ごめんね、困らせたかな?」
「そんな事はない、困った事があれば言ってくれよ。出来る限りの努力はするよ」
エディはそうフォローしてくれるけど、これは自分で確かめなければならない問題である事を知らされたと悟るに足りるものであるのは確かだった――。