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悠里17歳

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6 年の差姉妹



 私は裏のテラスで素振りをしていた。毎日最低でも100本の素振りはかれこれ10年欠かしていない。今日は三歳の甥、聖郷の指導も兼ねている。といっても聖郷はまだ竹刀を握ってじゃれてるだけだけど――。
 二刀流で使う小太刀が彼のちょうどいい練習道具だ。篤信兄ちゃんが日頃教えている成果もあって、私の声に合わせて
「イチッ、ニーッ!」
と元気のいい声を出しながら上下素振りをしている。三歳にしては上出来だ、声と振りが揃っている。
「悠里ぃ」
 そこへお姉ちゃんがリビングから出てきた。結婚前は神戸の会社で翻訳の仕事をしていたが、今はこっちで日本向けに絵本の翻訳などを手掛けている。日米両国に会社の事務所があるが仕事はEメールで文面を送ればいいので、未就学児のいる女性にとっては働きやすい環境といえる。今日は文章の出来がいいのかご機嫌そうだ。
「悠里も剣道歴長いねぇ」
「うん」一旦竹刀を下ろした「何年続けても完成しない。だから続いているんやと思う」
 お姉ちゃんはテーブルにお茶を置くと横のベンチに腰掛けた。
 私の記憶の一番遠くで、お姉ちゃんも剣道をしていたのを覚えている。本人の話では中学の時までと言うから私が四歳か五歳の頃までである。確かに、防具や道着の類いはお下がりがあったので困らなかったが、お姉ちゃんが竹刀を振っている姿はあまり記憶がない。
「お姉ちゃんも昔は篤信兄ちゃん見て剣道始めたん?」
「うーん、ちょっと違うかな?」
「えーっ、そうなん?」
 お姉ちゃんは物心付いた頃から学年でいえば二つ上の篤信兄ちゃんを追いかけて育ってきた。「姉の好みは義兄の好み」という方程式はほぼ常に成り立つものと思っている私には少し意外な答だった。
「実はね、剣道始めたのはあたしが先なのよ」
 私はもう一度ビックリして声を上げた。
 お姉ちゃんが剣道を始めたのは五歳の頃、場所は加州剣倉館、そう、ここアメリカの道場なのよと教えてくれた。篤信兄ちゃんは小学校に入った時だというので確かにお姉ちゃんの方が先に始めている。何でもその頃ホームステイに来た篤信兄ちゃんと剣道で対決して、お姉ちゃんが見事な二本取りで当時の篤信兄ちゃんに勝ってしまったことから篤信兄ちゃんも日本に帰って本気で剣道に打ち込んだそうだ。
「篤信君は凝るとどこまでも追い求めるような人やから……、すぐに私より上手になっちゃった。頭いいしね、知恵比べになったら勝てないよ」
 お姉ちゃんはクスクス笑いながら妹にノロケ話を教えてくれたと同時に「これは内緒話よ、篤信君が聞いたら拗ねるだろうから」と釘を刺された。
 それから二人の立場が逆転するのに時間はかからなかったけど、今でもお姉ちゃんに負けたことは忘れていないみたいで、それを私には一切口にしない篤信兄ちゃんが彼らしいというか、少しかわいく見えた。
「そうか、悠里は見たことないんか?」
「何が?」含みのある言い方に私はお姉ちゃんの顔を見た。
「父さんが剣道しとうとこ」

作品名:悠里17歳 作家名:八馬八朔