悠里17歳
「悠里……」
「なあに?」
サラと二人になると、彼女の言葉が急に変わることがある。日本に住んで長いけど、家の中では日本語がない事は彼女の家に招待された時に知った。
ここで問題がある、正直私はネイティヴほど英語が理解できない。他の家庭よりは家の中で英語が飛び交う環境にはあるが、それも以前の話で今はそうでなくなって長い。聞けば大体わかるけど、表現するのはもっと苦手だ。
学校でも活発で元気なサラ、だけど本当は繊細なところがあって、私の逆で言いたいことを日本語で表現するのが苦手なのを私は知っている。初めて彼女に会ったとき、それがわからないですれ違っていた時期があった。それを知った私がサラに近づきたくて私から勇気を出して声を掛けたことから今の関係が始まったのだ。
今度は私が中学生の時、困難な時期を強いられていた頃サラが私を救ってくれた。彼女こそ私の仲間だ。そう思って現在に至っている。
彼女が英語で話しかけるのは、私を仲間と認めたからだ。基本サラが人前で英語になるのは私と晴乃の前だけで、晴乃は西側訛りの強いサラの英語を理解しづらいようだが、それでも私たちはサラの言うことをわかるまで聞くことにしている。
「結論、出したの?」
サラは私の前に顔を突っ込んだ。
「何が?」咄嗟にとぼけるけど隠しきれない。
「何がって、『キャプテン』の事よ」
私は愛想笑いをして目線を逸らした。
実は、去年の夏合宿で私は篠原君に「好きだ」と言われたことがあった。突然の告白に驚き、何せ初めての事でどうすればいいかわからずドギマギするだけで、何も答えられなかった。嫌いな訳ではない、むしろ彼の目指す剣道は好きだ。でも特定の人物として交際するのは私には想像がつかないし、自分の中で整理がつかないとそういう考えには至らない。ここまではサラと晴乃だけに話したことだ。
「中途半端なのは良くないよ、どっちにも」
「うん……、それはわかっとうけど――。どっちをとっても気まずくない?」
サラのアドバイスは痛いほどわかる。だけど何の進展もなく現在に至っていて、篠原君も私の性格を知っているのか、今まで通り決してギクシャクすることなく接している。
曖昧にして上手に関係を保つ事ももちろん大切だ、それは篠原君も同じだと思う。何もしないで後悔するのは嫌いだが、何もしない方が良い時だってある。だけど、何も事を起こさないのは自分のルールに反している。結局は現状に満足して、決断しなければならない時に決断できていない自分がとても嫌いだ。
「まぁ、難しいよね……」
「うん――」
考えながら歩いている内に私たちは小さな公園を横切った。細い道路を隔てた向こうに小さな二階建ての古い文化住宅が見える。私の家だ。