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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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目には 目で

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平穏な日が続いていた。
Santiago の家と通りを挟んだ向かいの敷地。此処に新しく建てた家の一角で、キダは、小さな雑貨屋を開いた。
「Thank you, sir...」
と、開店以来、二か月の殆どを、店の出入り口近くで椅子に座っているキダに、買い物に来た客が言う。
「いや、こちらこそ・・。何時も買ってくれて、ありがとう。」
ぶっきら棒な店番は、まだ慣れない接客に苦労しながら頭を下げる。
「客が、ありがとうと言いながら、金を払う店なんて、此処くらいですよ。それに・・兄さんが、ありがとうって言う時の顔、何だか怖い・・・怒ってるみたいだ。日本なら、こんな店は、三日で潰れちまう。」
と、時々、俺が冷やかすが、当の本人は、
「うるさい。・・そのうち慣れる・・」
と愛想のない顔で言い返す。まったく・・、こんな店に来る客も客だ。
尤も、当人の思惑がどうであれ、実際は、彼のパートナーのLolit が、その店を切り盛りしている。その彼女が、
「お店に出るのは、時々で良いよ、私も居るんだから・・」
と、優しく言うのだが、キダは、言う事を聞かない。
「姉さんの言いたい事は、・・・」
つまりは、お前さんが居ない方が、売り上げが上がるって事なんだが、真面目くさった彼の顔を見ると、そうそう正直な事も言えない。
こういうのを殿様商売っていうのかな・・?。いや、この店の場合、むしろ客の方から進んで買い物に来て、彼がありがとうを言う前に、『Thank you, sir』と言うのだから・・・強いて云えば、勝手に殿様商売ってところか。

 その様な長閑な日が続いていたある日。
 午後九時半、店の戸締りを終え、家族が、遅い食事をしている時、一本の電話がかかって来た。
Lolit が、電話の在る隣の部屋へ・・。
そして彼女は、慌てて引き返して来て、キダに向かって、
「大変・・・、マスター(プロダクションのオーナー)が、警察に逮捕されたそうよ。」
と、早口に告げた。キダは、
「・・どうして・・、何かヘマをしでかしたのか?」
と聞き返したが、
「分からない・・。Beth.(オーナーの妻)が、すぐにあなたと話したいと言ってるわ。」
と、LOlitは、応えた。キダは、Lolit が話し終えるのを待たずに、電話口に行った。
 そして、電話を終えると、彼は、
「Beth. も、うろたえているから、何がどうなったのか分からない。兎に角、マニラにこれから行く。後の事は、それからだ・・」
と、言った。
 何事にも開けっ広げで明るい性格のマスターと、一言居士とも云えるほど寡黙なキダ。一見、正反対の性格を持つ二人だが、妙にウマが合う。
マスターが逮捕された事件にまつわる情報を、誰が正確に得る事が出来るかと、キダは、警察・実業家・街のゴロツキなど、彼の知り合いの名を次々に思い浮かべながら、着替えをした。
 その傍で、急いで着替えをリュックに詰めるLolit。キダは、向かいのSantiago の家に、急なマニラ行きを伝える。
 俺が、車の手配に出掛け、二十分ほど後に帰って見ると、大工の主人夫婦が、心配げな顔で、部屋の中を小さく行ったり来たりしていた。
 キダは、
「当分家に帰れなくかも知れない。何か有ったら電話するから、夜中の電話も全て受けろ。」
と、手短に言い、ゆっくりと車に乗り込んだ。
だが、一瞬間を置いて、もう一度、車から片足だけ降ろし、
「ユウジ(俺)、明日の正午までに、マカティーのマスターの事務所まで来い。」
と、言い残し、出掛けて行った。
 マニラまでの車中、キダは、考えた。
あのマスターなら、少々の事件で捕まったくらい、金で解決して、俺になど連絡はしないだろう。連絡をして来たという事は、金だけでは解決出来ない何かの理由が有るからに違いない。これは、余程注意深く動かねばならない、と。
「金に汚いポリ公が、首を縦に振らないんだからな・・」

この国では、警官を10年やって家を建てられない者は居ないと、まことしやかに云われるほどだ。
警官の給料なんて、そんなにびっくりする程多くはない。家族が何とかやって行ける程度の、細やかなものと聞いている。だから、10年で家を建てる為には、相当、副業に精を出して頑張らなければならない。
彼等の頑張り方を幾つか披露する。
小さな事では、交通違反で捕まった時、罰金200ペソだったとする。運転手は、すかさず、
「勘弁してくれよ、ボス・・。その代りあんたに100ペソあげるから・・」
と、警官が、返事をする前に、小さく折り畳んだ紙幣を手渡す。警官はそれを、空を見ながら受け取って、
「これからは気を付けるんだぞ・・」
と、手でハエを追う様にする。その後は、何処かで、聞いた様な話だが、払った方が、
「ありがとう。」
と言って、さっさとその場を去る。
また、週末に時々災難に遭う事も有る。
これは、交通違反の場合より、やや組織立ってやる場合だ。
まず、金曜日の夕方から夜にかけて、金回りの良さそうなターゲットを見付け、いきなり逮捕する。
ワッパを掛けられた者は、何が何だか解らないうちに拘置所に入れられる。罪状などどうにでもなる。一般的なのは、薬物使用、所持など。
「そんなの、身に覚えはないぞっ!」
と、檻の中でいくら叫んでももう遅い。それに、捕まえた方も、はなっから聞く耳は一切持たない。檻の中の彼(彼女)が、叫び疲れた頃をねらって、
「まあ、改めて見れば、お前はそんなに悪そうな人間ではなさそうだ。幸い今日は、金曜日の夜だ。だが、来週の月曜日まで拘留が続けば、別の班が、この一件を引き継ぐ事になる。そうなれば事態は、もっとややこしくなるぞ。・・・一時の気の迷い・・という事で、・・どうだ、五万ペソの罰金を日曜日中に払えば、釈放しても良いぞ。」
捕まった方は、
「え~・・そんなに払えないです。せめて半分程なら、何とか・・」
と、まあ、こんな感じで、金を用立てさせる。
金を受け取った側は、書類を作って、サインをさせて、容疑者を釈放。容疑者が帰ると、その書類はゴミ箱へ・・。
そして、受け取った罰金は、その班の者達が、均等に分けて、それぞれの懐に入れる。以上で警官たちの内職は終わる。
もうひとつ、セブ・シティーでの話。
俺の知り合いの嫁さんが、バスで強盗に遭った。バスの乗客すべてが、現金は勿論、指輪、ネックレス等、金目の物を根こそぎ持って行かれた。嫁さんは、すぐに俺の知り合い、つまり、彼女の旦那に電話をした。旦那は、すぐに彼の知り合いの警官に連絡をとった。
次の日、警官から電話があり、旦那が警察署を訪ねると、知り合いの警官が、
「さあ、この中から、あんたの奥さんの物だけ持って帰るんだ。」
と言ったそうな・・。
まあ、例を上げれば切りがないので、このあたりで止めるが・・。

 
マカティーの事務所で、キダは、マスターの妻のBeth. と会った。
「金で解決出来なかったのか?」
挨拶もそこそこに、キダが、Beth.に聞く。
彼女は、黙って首を横に振った。
「幾らで交渉した?」
「・・十万ペソ・・・」
「・・分かった。・・Beth.、俺に一切を任せてくれるか?」
Beth. は、頷いて、
作品名:目には 目で 作家名:荏田みつぎ