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載小説「六連星(むつらぼし)」第21話~25話

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  指定された喫茶店で、金髪の英治が退屈しながら座っていた。
手元に置かれているコーヒーカップが、すっかり乾いている様子から見ると
だいぶ前から、待ちかまえていた様子がうかがえる。
響が座った瞬間。待ち構えていたように、英治が懐から分厚い茶封筒を
取り出した。
周囲の目を気にしながら、茶封筒を響の手の内側へ押し込む。

 「なによ、これ?」


 「100万と少し入っている。
 何も聞かないで、しばらくのあいだ預かってくれ。
 身内の中で信用できる人間といえば、お前さんくらしかいない。
 頼む。俺を助けてくれ」


 「身内?。・・・・いつから身内なったの。あなたと私は!」

 「まぁまぁ、そうむきにならず、頼む。1度だけ助けてくれ」


 なにやら深い理由がありそうだ。
店内を見回した響が、(大丈夫。怪しい人は居ないみたいだ)と立ち上がる。
安全を確認してから、英治の隣の席へゆっくりと移動する。
座った瞬間、無言のまま、英治の手元へ分厚い茶封筒をすっと押し返す。
鋭い視線を保ったまま、響が金髪の英治の顔を覗き込む。

 「なにをしてきたの。 これ、どうせ、やばいお金なんでしょう。
 理由も言わずに、ただ黙って預かってくれなんて、
 昔の任侠映画じゃあるまいし、
 私は危険なことにかかわるのは、まっぴらです。
 だいいち、あなたにはいまのお店の事で、お世話になったけど、
 身内どころか、いまだにお友達ですらないでしょう。
 断っても、当然の話でしょ」


 「じゃあ・・・ちゃんと理由を話したら、これを預かってくれるのか」


 「まあね。筋が通るのなら、預かってもいいわ。
 貴方たちがよく使う、『一宿一飯の恩義』の借りも有るし。
 私も、それなりには対応するつもりです。
 でもね。どう考えてもこれが、危ないお金であることは明らかでしょう?。
 100万なんてお金、簡単には手に入らないわ。
 まずは私を納得させてちょうだい。
 そうすれば、好きじゃないけど、あなたの力になってあげてもいいわ」


 「好きじゃない、は、余計だろう。
 分かった、話すよ。だけど、その前にお前、もう少し俺から離れてくれ。
 お前のおっぱいのせいで、俺の心臓は爆発寸前だ・・・・
 飢えた男の目の前に、無防備のままのおっぱいをチラつかせるとは、
 お前さんも、まったく良い根性をしているな。
 おかげで、鼻血は出そうだし、目が眩んでクラクラしてきた」

 「あっ」、響が大きく開いている胸元を、あわてて両手で押さえこむ。
「ごめん」と、顔を真っ赤にしてあわてて立ちあがる。
そんな響に、英治が、反対側の椅子に座ってくれと目で合図を送る。
響が小さく丸まったまま、小猫のように反対側の椅子へ、
ちょこんと腰をおろす。


 「お前、見かけによらず、いいおっぱいしてんなぁ。びっくりしたぞ」

 「ばか・・・・。胸が見えるなら見えるって、もっと早く言ってよ。
 あたしが恥をかくまえに」


 「悪かったよ。でもおかげで、いい目の保養をした。
 この金だが、実は、表に出せない金だ。
 手に入れたのは、被災地のひとつ、宮城県の石巻市だ。
 大きな被害を出した石巻は、いまだにがれきの山が積み上げられたままだ。
 復旧作業も、ようやく始まったばかりさ。
 で、ここの避難所の5カ所に、「西日本小売業協会」や「西日本有志の会」
 と名乗る集団が現れて、支援金を配りはじめた。
 現金3万円が入っている茶封筒だ。
 全員に、公平に配っていく訳じゃない。
 あくまでも無造作に、適当にポンと置いていくんだ。
 街の中に不公平感をうむことも、暴力団の狙い目のひとつだ。
 北隣りにある南三陸町でも、町の災害対策本部へ、3万円ずつ入った
 茶封筒の束を、置いていったグループがある。
 配られた現金の総額は、1千万円以上になるだろう。
 石巻市とあわせれば、総額で3千万~5千万円の現金が、いっせいに、
 実態不明の団体によって配られた」


 「なんなの、それって。暴力団が市民に現金をばらまくなんて?。
 彼らの狙いは、なんなのさ。
 なんでわざわざ被災地で、お金をばらまいたりするのよ」

 「被災地の復旧や復興事業には、巨大な金が動く。
 がれきの除去や建物の処理、道路の復旧など、長年にわたって工事がつづく。
 被災者に金を配ることで、弱いものを助ける任侠のイメージを浸透させる。
 市民に認知されたところで、復興事業に食い込んでいこうという作戦だ。
 最初に困っている市民たちに、手厚いところをみせる。
 それから徐々に、利権に向かって浸透していくのが、暴力団が使う
 典型的な手口だ。
 ゴミの処理施設や、埋め立て地事業の、情報収集がはじまってきた。
 道路工事や建物の建設のための、重機の需要も高まってきた。
 暴力団による、重機の買い占めもすでに始まっている。
 被災地は、暴力団から見れば宝の山だ。
 至る所に金脈が眠っているようなものだ。
 金をばらまくのは、こうした目的のための地元工作だ」


 「暴力団がばらまいている黒いお金なの、このお金は。
 馬っ鹿じゃないの、あんたは。
 そんなお金をくすねて来て、いったいどうするつもりなの。
 ばらまき自体が反社会的だと言うのに、不良の金をくすねてくるなんて、
 あんた、一体何を考えてるの。
 小指の一本を詰めたところで、すむ話じゃないわよ」


 「響。任侠映画じゃあるまいし、今どきは、小指なんか切らねえよ。
 冗談を言っている場合じゃねえことは、俺もよく承知している。
 だが、これをきっっかけに俺も、こんなやくざの稼業から足を洗いたい。
 こいつを退職金がわりに頂いて、東北で行方不明になっている
 茂伯父さんを探しに行きたい。
 これはそのための当座の、活動資金だ」


 「あ。・・・・
 長年実家へ仕送りをしてくれたと言う、あんたの伯父さんのことか。
 そうか、行方不明のままだったわねぇ、たしか数年前から。
 それにしても、困ったなぁ・・・・
 どう考えても、八方塞がりの展開じゃないの。
 だいいち、そんなに簡単にやくざの世界から足が洗えるの、あんた・・・・
 足を踏み込むのは簡単だけど、ぬけるのが大変だって聞いているわ。
 そのうえ不良の危ないお金を退職金代わりに、失敬してくるなんて、
 前代未聞の、非常識な話じゃないの」


 「実はもう、俺のために、動き始めてくれている人が居る」

 「え?・・・誰よ。動き始めた人って」


 「俊彦さんだ。今朝、早い時間に会いに行ってきた。
 お前さんは、2階で寝ていたから、何も気が付いていないだろう。
 話を聞いてくれたあと、あとのことはまかせろと胸を叩いてくれた。
 簡単に片付くとは思わないが、お前のその伯父さんのためにも、
 なんとかしょうと言ってくれた。
 この茶封筒の金も、俊彦さんの指示で、響に預けろと言ってくれた。
 だから頼む。この金を持っていてくれ、この通りだ」


 (あの爺ィ。私には、女に会いに行くなんて嘘をついていたくせに、
裏に回って、人助けのために、こっそりと動いていたなんて、粋だなぁ。)