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月光ーTUKIAKARI―

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そのまま窓から落ちてしまいそうな程、体をのりだした。
「彼方、ごめん、オレ・・」
今にも泣きだしそうな表情。
「乱人、好きだ!!!」
目を見開き泣きそうな笑顔で
「好きだ!ひなみ!!!」
ためらうことなく答えた。
加速していく列車に、手が離れる。「あっ!!」
躓いて、転んでしまう。
「ひなみっ、ひなみ―――っ!!!」「乱人―――っ!!!」
去ってゆく、乱人の姿に向かって俺は叫んだ。
「乱人――――――っ!!!」
そうして、遠く小さく見えなくなっていった。
右膝のジーンズが破れ、血が流れていた。


乱人と別れたその日から、俺は乱人の事を思い続けた。
担任から聞き出した乱人の転居先の住所へ、何通も何通も、手紙を出したが
『宛て所にたずねあたりません』
と、赤く印を押され返送されてきた。
電話番号を、乱人は残していかなかった。
届かない手紙が、数十通を超え、冬が過ぎ・・春が過ぎ・・・いくつもの季節を数えた。

何度目かの、春が来てそして、俺はT都のW大へ入学し、一人暮らしをはじめた。
大学の映画研究会で知り合った、中田早穂子(なかたさほこ)という地味でおとなしいが、
芯のしっかりした女の子と付き合い始め、秋が訪れた。
オレと、早穂子はまさに似た者同士、の二人だった。
乱人と俺がすべてにおいて正反対なのと対照的に・・・。

乱人の事を決して忘れてはいなかった。
いつでも、どんな時でも心の片隅で必ずまた逢えるという信念に近い想いが離れる事はなかった。
月日が過ぎても、乱人の姿は色あせなかった。
髪、眼、声・・・出来事のすべてを4鮮明に覚えていた。

秋は、刻一刻と色を変え、深まってゆく。
大学の休講日に、早穂子と映画を見るため、参道を歩いていた。
人の波にそって歩いていく。
早穂子と笑いながら、しゃべり歩いた。

ふと、前を見た時、まるで焦点を合わせたように、一人の姿が眼の中に飛び込んできた。
色素の薄い長い髪・・切れ上がった、大きな二重の瞳・・細い顎、つんとプライド高そうな鼻――。
とても美しい―――。
無表情な、無愛想なその顔が、俺の方を見、そして次の瞬間、驚くように劇的に変化した。


名前を呼びながら、俺は乱人の方へ駆け出して行った。




                                                        
THE END
作品名:月光ーTUKIAKARI― 作家名:中林高嶺